「赤いよ、顔」
「……うん」
言われなくても分かってる。
この顔の熱は私が一番実感しているから。
真っ赤で、涙目で。
私はきっと泣き叫ぶ前の赤ちゃんみたいな顔をしてるんだろう。
「ハ……」
ペチペチ、と、早瀬君は2回優しく私の頬を叩いて、仕方ない子だね、と言わんばかりの笑顔を向けた。
私は心臓に、先っぽをきゅうっとつままれたような痛みを感じた。
カタン……。
姿勢を戻して読書を再開する早瀬君。
私はクセのついた前髪を何回も手ぐしで直しながら、古文の訳の宿題をやっているふりをした。
心臓の音と戦いつつ、隣の男の子に意識を全部盗られていることを悟られないように。
シャープペンシルを持つ手が若干震えていることを気付かれないように。
早瀬君は私の動揺なんてどこ吹く風。
いつも通り、パラリ、……パラリ。
2本のヘアピンは、……結局返してもらえなかった。