「ハハ……」
早瀬君は笑った。
目が無くなって、目尻にくしゃっとシワができた。
私は緊張で必要以上に見開いたままの目を、ようやく瞬かせることができた。
「か、鍵、おね、お願いしま、す!」
バッと頭を下げ、私は逃げるようにその場から去った。
何だ何だ。
何なんだ早瀬君は。
上履きの乾いた音が廊下に響く。
頭の中がグルグルなりながらも、私はひたすら小走りで足を繰り出した。
振り向くことは、もちろん出来なかった。
靴箱へ走り、校門を出て、帰り道の3分の1まで。
私の頭の中は疑問符と先程の早瀬君の顔で占領され尽くし、周りの景色なんて全くもって見えなかった。