早瀬君は無表情だけど優しい顔。


私には分かる。


これは、優しい……顔。




「楠原、目、閉じてみる?」


「え……?」


私の髪をすくっていた早瀬君の人差し指が第二関節で曲げられ、ツツ……と頬へと移る。


ええ?


目?


閉じたら……。


「……」


えっと……。


経験の無い私でも分かる。


この、あまりにも雰囲気のある、……状況。


「え……え、と……、あの……」


私は自分の顔が一気に紅潮したのが分かった。


音が響く静かな廊下に、このみるみるうちに早くなる心臓の音まで拾われてしまいそうだ。




でも目を離せない。


瞼に少し前髪がかかって、その影が大人っぽさを演出している早瀬君から、
目を、
……離すことができない。