ギシ……。 体重を後ろに戻して、離れていく早瀬君。 その小さな所作にすら僅かに風を感じてしまうほど、その一瞬は研ぎ澄まされた一瞬だった。 「あ、あり……」 口をパクパクする私を見て、早瀬君がクスリと笑う。 「ありがとう?」 「う、あ。 ……うん」 「どういたしまして」 そう言うと、早瀬君は静かに視線を本に向けた。 パラリ。 「……」 ガタッ。 私は不格好になった姿勢を戻す。