「実結、腹へらねえか?」
ふと脚を止めて振り返った修弥に、少し顔を上げて「あ、うん」と軽く返事をした。
雨だから、どこの店もいっぱいだから、入れないけどね。
修弥の声や仕草が、私から感情を吸い取っていくような気がする。
顔を見るたびに目をそらしたくなる。声を聞く度に思考を切断したくなってしまう。
修弥のことでもう何も考えたくないんだ。
「実結!」
神経が全てを拒否するように、ただ歩いていた私に修弥の声が耳に否応なしに入ってきた。
顔を上げた瞬間に修弥の顔が目の前で、そのまま修弥の胸に落ちるように引き寄せられる。
どん、と何かにぶつかって「すいません」と声が聞こえた。
そう言えば――…昨日もこんな事が合ったような気がする。
「お前、何ぼーっとしてんの?体調悪いのか?」
男の子が隣を通り過ぎて、修弥が私の体を引き離す。
修弥の手が、肩に。
「ありが、とう」
こんなことで何を意識しているんだろう。
肩に、修弥が触れる肩に神経が集中するのがよく分かる。