「もーいい。なんもねえ!」
「ごめんってー怒らないで?」
クスクスと笑う私に、そっぽを向いた修弥の顔は、後ろ姿だけでも真っ赤だろう事が分かった。
「ねえ、修弥?」
服をくいっと引っ張って、振り向いた修弥の顔は、真っ赤だったけれど真っ直ぐに私を見つめていて
そのままキスをしたのが初めてのこと。
キスをした後は、また二人で無言になって、部屋の中なのにずっと向かい合って手を繋いだままだった。
あの頃のことなら、色んな事を思い出せるのに。
いつからだろう、修弥とのことで思い出せなくなったのは。
いつからだろう、修弥の知らないことが多くなったのは。
それすらも思い出せない。
笑った修弥も、一緒になって笑った自分すらももう見つけられない。
わからない事が増えていって、自分の事すらも分からなくなってしまったんだ。