「どした?」

何も言えないままの私に、席までやってきた修弥が少し腰を落として私の顔をのぞき込んだ。

「あ、いや…どうしたの?」

いつも通りの修弥に不安と安心が混ざり合う。

今心配しても、私以外誰も知らないだろうし誰も理解してくれないだろう。

なるべく、多分今までと何ら変わらない笑顔を見せて顔を上げた。

「なんでもないならいーけど。

今日映画行かねえ?」

1つ1つの言葉が重たく感じる。

この誘いを受ければ――前と同じような終わりを迎えるのかもしれない。

ぎゅっと目をつむっても、雨の冷たさと赤い修弥が私を襲う。

「今日、は…ちょっと」

自分の声が震える。
なるべくいつも通りに。
修弥には何も気づかれないように。

そう意識をしているのに、昨日の最後を思い出せば出すほど目眩がして倒れそうだ。

「なんか用事?」

「うん、まあ…ちょっと…」

多分、修弥は今私の目を見てるだろうと思ったけれど、目をあわすことが出来なかった。

ただ視線を少しずらして、でもなるべく、出来る限りいつも通りにやり過ごそうと笑った。


笑えているのかどうかは――分からないけれど。