テスト中の静かな教室は雨の音をうるさくするから好きじゃない。
晴れてたら体育の授業かなんかで騒がしい人の声が聞こえるのに。そっちの方がよっぽどましだ。
空から描かれる線を眺めながら小さくため息をついた。
あと一分くらいか。
そう思って顔を上げて時計を見て、再び名前書いたっけ?そんなことを思ってテスト用紙を見つめた。
「あ、れ」
多分、誰にも聞こえないような声だっただろう。
ぽろりと零れた自分の声に、自分が一番驚いたような気さえする。
――どっかでみた。
動詞の活用法が書かれた問題の単語に見覚えがある。
何でだったっけ?
どこで見たんだっけ?
この答え、私知ってるんじゃないの?
目をつむって、眉間にしわを寄せながら唸って見るも、何も思い出せない。
どこでみたっけ?なんで私覚えてないんだろう。
見たんだとすれば――昨日?昨日、っていうか前、何したんだっけ?
私にとって一日だけの記憶なのに、何も思い出せない。霧がかかっているとかそんなもんじゃない。
ただ、私が、覚えてない。