「実結」

本を眺める私の背後から名前を呼ばれたが「んー」とそのまま返事をした。声の主は、声を聞けば分かる。

「こっち向けよ、何珍しく休み時間に勉強とかして気持ち悪い」

気持ち悪いって何よ。

むっとして振り返ると、そこには思った通り、修弥が突っ立っていた。


「何?」

「今日、映画見に行こうぜ」

「ああ、言ってたっけ?」

ふとそう返事をして、自分で疑問を感じた。

――言ってたっけ?

「は?俺言ったっけ?」

私の言葉に修弥も不思議そうな顔をして私を見るけれど、私にだってわからない。

でも、言われた気がする。
夢のことだっけ?余りにも鮮明に思い出せるのに、どこか霧がかかって感じる夢の記憶に、色んな事がわからない。


「や、いつも同じ台詞だからそう思っただけかも…?」

「なんだそれ」

だっていつものことじゃない。


暇が出来れば私を映画に誘う。気まぐれに私のことを。都合良く。私の予定を特に聞くこともなく。

決まってお決まりの映画でしょ?


「まーいいや。んじゃまた終わったら来るわ」

そしていつものように一時間以上待たせるんでしょう?

「ん」

それを気にしないように振る舞うのも、いつものことなんだもの。