ルウコがそう簡単に死ぬはずがない。
それはボクだって17歳から5年以上ずーっと思ってきた。
でも、心のどこかでは正直怖かった。
ルウコが死んでしまったらボクはどうなるんだろう?
気が狂ってしまうんじゃないか、大丈夫なんだろうか?
ルウコがいなくなってしまった世界でボクはどうやって生きていく?
希望の裏には絶望は常にあって、そしてそれは恐怖すら感じるものだ。
・・・いや。
でも、ボクは強くならなきゃいけない。
だって結婚式で誓った。
『病める時も健やかなる時も生涯変わらぬ愛を誓いますか?』
ボクはどんな事が起ころうとルウコと幸せだって思える人生を歩む。
それが例え短い時間でも・・・。
ソウちゃんへ
ソウちゃん・・・、もう『パパ』って呼んだ方がいいのかな?
やっと愛しい我が子に会えました。
あたしの体力上、自然分娩が出来なくくて帝王切開になっちゃったけど、
この子に会えた時、やっぱり涙が出ちゃいました。
そして、ソウちゃんが泣くとは思わなかった!!
ビックリしました(笑)
でも、そうだよね。
だってこの子はあたしとソウちゃんの宝物。
この世で1番大切な存在だよね。
本当に生まれてきてくれてよかった。
あたし達のところへきてくれてありがとう!!
・・・って、ソウちゃんにお礼言ってもね(笑)
でも、ソウちゃんがいたからあたしはお母さんになれました。
昔からお母さんになってみたいな、でも無理かな?って憧れと諦めがあったの。
ソウちゃん、あたしの夢を叶えてくれてありがとう。
これからは3人だね。
もしかすると・・・ううん。絶対にこの子にキョウダイを作ってあげたい。
1人生めたならまだたくさん生める!!
母は強いんです(笑)
でも、今はまだ3人の時間を大切にしたいな。
ちょっと体力が回復するまで、あたしの方が入院が長くなっちゃうけど、
3人で思い出いっぱい作ろう!
この子に『ママ』って呼ばれるまで、あたしが絶対大丈夫!
あのね、この子を見てるとその瞳には世界はどんな風に映っているのかな?って
よく考える。
世界はあんまり美しくない事が多いけど、この子の目には世界が少しでもキレイで、そして優しく映っていてほしいな。
これからもずーっと。
この子の優しい未来を作っていくのはあたしとソウちゃん、2人の役目だね。
だってあたし達『親』なんだから。
そして、あたしが一番心配している事。
それは、あたしの病気は遺伝だから、この子に遺伝されてなきゃいいな。
ソウちゃんの遺伝子があたしの遺伝子より多く入っていてくれるといいな。
この子にはあたしのような絶望や悲しい気持ちを味わわせたくない。
ソウちゃんのように笑顔で元気で走り回ってくれるくらいになってほしい。
調べられるのはまだ先なんだけど・・・。
あたしはそれだけが心配です。
ねぇ、ソウちゃん。
すごい遠い未来の話なんだけどさ。
この子にもいつか好きな人が出来るよね?
・・・ヤキモチ焼いちゃダメだよ(笑)
その「好きな人」がソウちゃんの様な人であってほしい。
沢山の希望と笑顔をくれるような人であってほしい。
そしてこの子自身も優しくて陽だまりのような子に育ってほしい。
ソウちゃんみたいにね。
あたし達は親になって、守るべき存在が出来たけど、変わらない事がある。
ソウちゃんは、今でもずっとあたしの『生きる意味』です。
存在理由です。
ソウちゃんあってのあたしなんです。
そんなソウちゃんに抱えきれないほどの愛を込めて。
ルウコより
「父ちゃん!!」
ボクは甲高い声にため息をついた。
「あのな、何でお前は『お父さん』って呼べないかな?」
そんなボクを見てニヤーって笑う。
「だって、ママが「父ちゃん」って呼ぶじゃん」
「違う。ママは「ソウちゃん」って呼んでるんだよ」
キョトンとした顔でボクを見ている。
「何だよ?」
「・・・だから「父ちゃん」でいいんでしょ?」
「おい、父ちゃんじゃなくて「ソウ」!!ソウちゃん」
「だったら今度から「ソウちゃん」って呼んだらいいの?」
「お前、親をなめてるだろ」
ボクがゲンコツを作る仕草をすると「キャー」と言ってドタドタ走り回った。
その後をボクが追いかけて掴まえる。
「ソウちゃんに捕まったー!!!」
掴まったクセに嬉しそう。その笑顔はルウコにソックリだ。
「ねー、ソウちゃん。ルミちゃん何時にくるのー?」
やっとパジャマから着替えてからボクに聞く。
「さぁな。午前中には来るんじゃないのか?」
「ゴゼンチュウ?それって何時?」
ダメだ、相手は幼稚園児だ。
まともな答えじゃダメみたいだ。
「うーん・・・。おやつの時間が終わって、お昼ご飯の前。その間に来ると思うけど」
「OK!!」
「お前、本当にわかってんのか?」
ボクの質問に不満な顔をする。
「ソウちゃん、ツナミの名前は「お前」じゃないでしょ!」
「はいはい、でもツナミもお父さんの事を名前で呼ばないように」
「わかったよー、ソウちゃん」
ウフフと笑うこの子はボクとルウコの子供の『ツナミ』。
「ツナミぃ!?」
ルウコが名前を決めたと言った時、ボクはビックリしてしまった。
そんなボクを見てルウコは冷ややかに言った。
「ソウちゃん、多分、嵐の『津波』を想像してるでしょ」
「え?他に何かあるか?」
ルウコは便箋にサラサラと文字を書いた。
そこには『津波』ではなく『繋美』と書いてあった。
「繋がる事は美しいって文字の如くそういう意味よ」
ボクはそれでも便箋を見ながら「うーん」と唸ってしまった。
「あのさ、『高柳 繋美』って漢字で書くとスッゲー難しくない?これ、この子に書けると思う?」
ルウコもちょっと悩んでる顔になった。
「そうか・・・学校とかで名前書いて下さいって言われたら難しいかな?」
2人でしばらく考え込んでしまった。
ボクが考えてたのは、ルウコのお題が『何か希望がある感じでね』だったから、
単純に『未来』と『希望(のぞみ)』だった。
「悪くないけど、違うのよ!もっと頭捻って考えてよ!!」
ルウコからあっさりダメ出しをくらって却下されてしまった。
「ま、オレに似てバカだったら学校にお願いしてしばらく『つなみ』ってひらがなで書かせてもらえば?」
考えてもルウコはこの名前が相当気に入ってるみたいだからいいと思った。
「バカな子になるわけないじゃない。あたしの子供なのよ?ソウちゃんみたいに授業中グースカ寝る子には絶対なんないわよ」
ルウコが文句を言う。
「わかんねーぞ。女の子は父親に似るからな。バカ決定だな」
ボクはルウコの隣で寝ている我が子を見て笑った。
それからそっと抱き上げて「あたしバカな子ー」と歌ってみた。
「やめてよ!本当におバカになったらどうするのよ」
そういうルウコも笑っていた。
「バカなんだよなー、で、ママみたいにすぐ怒るんだよ、ツナミは」
「あたしは怒りません。ツナミはソウちゃんみたいに面倒くさがりにもならないんだから」
ルウコはすっかり呆れていた。
ボク達の間でこの子の名前は『ツナミ』に決定した。
「・・・父ちゃん!!」
ツナミの声で我に返る。
「え?」
ツナミは背中をボクに向けてバタバタ足を鳴らしていた。
「後ろのチャック!!しめれない!父ちゃんしめてよぉ」
『ソウちゃん』はやめてくれたけど、多分ツナミは一生ボクを『父ちゃん』と呼ぶのかな?
そう思いながらワンピースのファスナーを上げてやった。
「今日の父ちゃんカッコイイね」
ツナミがボクを見てニコリと笑った。
「そうか?オレはいっつもカッコイイの!」
「だって父ちゃんさ、いつもTシャツにパンツなんだもん」
「仕事中は違うだろ」
「お仕事の時はそうかもしれないけど、お家じゃいっつもパンツ。幼稚園のミサキ先生が笑ってたよ」
「はぁ!?お前何言ってんだよ!変な事幼稚園で言うなよ」
「あー、また『お前』って言った」
ルウコも『お前』って呼ばれると怒る。変な所が似るもんだ。
「ごめんなさいね、ツナミさん」
ボクは適当に謝りながらYシャツにネクタイを通した。