雪の中を何も考えずに歩いていたらヒロの家の前まで来てしまった。

ヒロの家は団地の1階。道路に面した窓がヒロの部屋の窓。

「灯り点いてる・・・」

雪球を作って窓めがけて投げた。

あたしはやった事がないけど、中学の時ヒロの部屋にいたら窓に雪球がぶつかった音がした。その途端、ヒロはあたしの頭をおさえこんで「誤解される」と言った。誰かがヒロに会いに来た合図だったみたいだ。

雪球は確かに音をたてて当たったけど、ヒロは出てこなかった。

電話をしようにもポケットにはタバコしか入ってない。

「女といるのかな」

あたしはもう1回雪球を投げた。
でも、結果は同じ。

(大事な時に、ピンチの時に何で出てこないんだよ)

そう思ったら涙がボロボロ出てきた。



雪がシンシンと降り積もる中、あたしはかなり歩いた。

結局、近所に戻ってきてそのまま家に帰るのもイヤでユキの家のインターホンを鳴らした。

「あら、うらら。真っ白でしょ、どこ歩いてきたの?」

ユキのおばさんはあたしの雪を手ではらってくれた。

「ユキは?」

あたしはかじかんだ手をこすりながら言った。

「いないよ。あんたと遊んでると思ったよ。本当にあの子は・・・。ほら、風邪ひくから入りなさい」

おばさんはブツブツ文句を言いながらあたしを家に入れてくれた。

ストーブの前に座ってあったかいお茶を飲むと寒さが少し和らいだ。

「何か泣いたみたいな顔してるね。その顔、幼稚園の時から変わんない」

おばさんは笑ってお茶を飲んだ。

「あのね、お父さん転勤なんだって」

あたしがボソっと言うと「あら、ウソ!?」とビックリした。

「でね、家族みんなで移ろうって話し決まってたみたいで、さっき聞いて、頭にきて・・・あたしは行きたくないの。誰もあたしを知らない所なんて行きたくないよ・・・どうすればいい?」

話してるうちに涙が出てきた。