ヒロのバンドのメンバーは、全員うちの中学で、ギターがかなり上手いらしいモリと、兄がバンドでドラムをやっていて、家にドラムセットがある子。

ヒロの実力はどうだか全然わかんないけど、他の2人は上手いと評判だ。

だったら・・・

「ねぇ、もしかして若葉って音痴だとか」

あたしは適当に思いついた事を言った。

その途端、ヒロがギョっとした顔になった。
そのまましばらくフリーズ。

「ヒロ?」

あたしが声を掛けると、「お前ふざけんなよ!」とちょっと怒っていた。
さすがに若葉は音痴?はヒドイ言葉だったかな?

「こういうデリケートな問題をあっさり言うんじゃねーよ!」

あぁ・・・図星だったのか。
あたしは笑ってしまった。

「笑うなよ!深刻な問題なんだよ!若葉に音痴だから辞めてくれって誰が言えるんだよ」

「モリくんが言えば?あ、それともヒロだけが思い込んでる?」

「いや、みんな思ってるけど口に出さない」

ため息をついてタバコを吸い始めた。

「ヒロから言いずらいだったら、やっぱりモリくんに言ってもらえば?バンドの中心の人なんでしょ?『若葉じゃちょっとキツイ』って言えばいいよ」

あたしの提案にヒロは鼻で笑った。

「じゃあ、聞くけど。お前言える?」

「え?誰に?モリくんに?それは無理」

「ちゃんと聞け。お前、イジメにあってるだろ?自覚あるよな?だから学校に行かないだよな?」

あたしは心臓がバクバクした。

「相談出来るような内容じゃないけどな、オレは一言悩んでるって言ってほしかったぞ」

ヒロは続ける。

「何でこうなったのか調べたけど全く見当がつかない。わかってる事は、だたお前が気に入らない、後、あの女がヤスを好きらしいって事だけだ」

あの女とは、あたしがいたグループの中心の女の子。

「お前言えるか?『何であたしがこんな目に遭うの?』って言えるのか?どうなんだよ!」

ヒロがビールを床にドンと置いたから譜面にビールが少しかかった。
あたしはティッシュでその部分をポンポンと叩くように拭いた。