あたしの長い話を聞くと、

「あのさー」

モリは水割りのグラスを揺らしながら言った。

「ヒロの墓参り行った?」

あたしから笑顔が消えた。

「実はオレも行ってねーんだわ」

「え?」


驚いた。故郷に住んでいるのに何で行かないんだろう。

「どうして?」


うーん、モリは頭を掻き毟った。

「なんつーかさ、リアリティーねぇのかな?ヒロが死んだって事はわかってんだけど、何かウソっぽいような騙されてる感じ?ま、理解したくねーのかな」


あたしにはモリのその気持ちがよくわかる。

あたしもヒロの死に対しては全くリアリティーがない。
ヒロのお墓の前に立つ自分のイメージが全くわかない。

「でも、お前がヒロの親友だって全然知らなかった」

モリの言葉にあたしは笑った。

「あたしとモリって共通点何もないでしょ?当たり前じゃん」

「あるだろ。ヒロっていう共通点」


グラスに焼酎を入れて水割りを作って、水滴がついているグラスをあたしは丁寧に拭いた。こういう部分がかつて水商売にいたという証明になってしまう。
いつもは気をつけているけど、今日はまぁいいや。


「あのね」

あたしは言った。

「ヒロ、中学の頃いっつも譜面を部屋いっぱいに散らばせてベース弾いてた」


「うん」


モリは水割りを飲みながらあたしを見ていた。
涙が出ないように呼吸を整えて話した。


「ヒロは・・・、モリの事をすごいいいヤツだって、大好きな友達って言ってた。で、モリのギターは最高だって。すっごく嬉しそうに言ってた」

あたしの言葉にモリは「あははは」とちょっと寂しそうに笑った。

「やっべ・・・、オレ、ちょっと泣きそうかも」

あたしはモリに笑顔を向けた。

「今ならわかるよ。その時のヒロの気持ち。やっぱりヒロはウソはつかない」