机に肩肘をついて窓の外に広がる雄大な夏空をぼんやり眺めながら、おれは間抜けな予鈴に耳を澄ませた。

今日は突然雷雨になるかもしれない。

高く盛り上がる雲の頂上が、大入道のように見える。

目が冴えるような夏の青空にむくむく沸き上がる入道雲が、午後の太陽を浴びて眩しく発光していた。









午後の授業は、おれの宿敵だ。

その教科が苦手だとなおさらだ。

9月上旬。

まだまだ茹だるような熱がこもった教室に、気だるく響き渡る教科担任の年老いた声が、おれの眠気を誘い出す。

右隣の席の男子生徒が小刻みに肩を震わせながら、ギャグ漫画に夢中になっている。

前の席に座っている女子生徒は両肘をついて授業を受けているようだが、きっと、上の空なんじゃないかと思う。

午後、とはそういう時間帯なのだ。

夏の午後は、特に。

集中力が途切れやすい。

開け放たれたまま全開の窓から聞こえてくるのは、蝉時雨による輪唱だった。

喧しいのにどこかクラシック調にも聞こえて、ますます眠気が増した。

こののどかな海辺の小さな田舎町に、じわじわと響いていた。

堪えきれず大口を開けてあくびをした。

少量の涙が眼球をまんべんなく潤し、ゆっくりと引いて行った。

上瞼が重くなり、体も沈み始める。

とろとろとした微睡みの中で、おれは窓の外に広がる空色に深く呑み込まれそうになりながら、ふと、数ヶ月前の4月の事を思い出していた。

苦手な数学の教科書と参考書を、意味も無くただ広げっぱなしにしながら。










春。

やわらかな陽射しがほんのり溶け出した小春空が、やけに胸に染み渡った桜が満開になった日だった。

高校生になって2週間。

まだ野球部に入部したばかりで、学ランの漆黒色すらおれは上手に着こなせないでいた。

幼顔なのだ。

それは母さん譲りなのだと思う。

毎朝、洗面台の鏡の前でおれは溜息を幾つも溢す。

歯を磨きながら。

もう少し、大人っぽくなりてえ、と。

そんな自分を少し情けなく感じながら、淡々とした日々をおれは送っていた。