ありがとう、私の〇〇


 え? 

 遥ちゃんがやってることってAIと一緒だよね?
 いつも感じてた?
 
 ありがとう、私のAI?

「……まじで言ってんの?」

 思わず声が震えたけど、岬ちゃんはそんなことに気づかないみたいで、「うん!」と元気のいいお返事が返ってくる。
 それで、あ、そういうこと、と理解した。
 きっと岬ちゃんの中では無意識だったとしても、始めからずっと、今の今までずっと私は、岬ちゃんが今まで頼ってきたAIの代わりでしかなかったんだと。

 そりゃそうだ、だってもともと私が言い出したことだもん。スマホの中のそいつの代わりになってあげるよって。
 私からしたら代わりに教えてあげるよっていうニュアンスだったけど、言い方が悪かったんだ。そのまま素直に言葉を受け取った岬ちゃんが、AIの代わりだと信じ続けて今日この時まできた、ただそれだけのことなんだ。
 ――なんだそれ。

「私は、AIなんかじゃない」

 ショックだった。でも同時に同じだと言われて一瞬否定できない自分も居た。そうなのかもって。
 だけど違う。絶対に違う。

「私は、そんなつもりで向き合ってきたことなんて一度もない」
「お、怒ってるの……?」

 そう!

「怒ってるに決まってんじゃん! バカにすんなよまじで!」

 大声を出して睨みつけると、岬ちゃんはビクッと怯えて小さくなった。多分自分がどんな意味を持った言葉を口にしたのかすらわかってないんだこの人は。
 だって始めからそういう何もわかってないのに基本的に人のことを下に見ているような人だったから。仲良くなって可愛いく感じてるうちに、そんなのすっかり忘れてた。

「確かにさ、私は私からしか生まれない正解をもってないかもしれないし、自分には人と同じところも違うところもあるって思ってるから自分がどういうタイプかなんてすぐにわからなかったよ。AIみたいって言われたらそうなのかもって思うくらいには。でもさ、絶対にAIとは違うって言い切れるところが私にはある」

 私のAIとは違うと言い切れる部分。それは、

「感情があるところだよ。私は毎回、答えを出す時に自分の感情も一緒に相手に渡してる」

 今だってそう。私は今、傷ついてる。怒ってる。それはずっと渡してきた思いが、今までの全てが私の一方通行だったんだって感じたから。
 だから今、私の答えと一緒にあなたに怒りをぶつけてるんだよ。AIはそんなことしないでしょ?

「訊かれたことを答えてただけじゃないよ、私はいつも真剣に目の前の人のことを思ってきた。そこにはちゃんと私の意思があって、私の感情があった」
「感情……」
「そう。指示されてやってるんじゃなくて、約束したからやってるんじゃなくて、私が手助けをしたいと思うから、あなたのことを知って、考えて、あなたに合わせた正解を導き出したくて答えてきたんだよ。別にいつだってやめられるし、嫌だったら始めから提案なんてしない。でもあなたには私から声をかけたし、今日までずっと相談に乗ってきた。なんでかわかる?」

 私の勢いに今にも泣き出しそうな顔をして岬ちゃんは、すぐに首を横に振ってわからないことを表す。
 ――ねぇ、今私の言葉の意味考えないで首振ってない?
 もっと時間使って考えてよ、わかれよバカ!

「私があなたのことを気に入って、友達だと思ってるからだよ! 可愛いくて面白い私の友達だと思ってるから、だからこうやって色々話してきたんじゃん! それなのにそっちはずっと私のことAIだと思ってたなんて、ほんと最悪過ぎる……っ!」

 ふざけんなよと、全部全部無駄だったじゃんと思った。大切にしてきた、楽しかった全ての思い出に思い切り泥を塗られてしまった気分だ。
 私にこんな風に言われて今、何か感じてる? 私にしかない、私だけの怒りを今あなたに向けているんだよ。それなのになんで何も言ってくれないの? わからないの? なんでわかろうとしてくれないの?

「こうやってあなたの言葉で傷つく私が今ここに居るんだよ……私には感情があるから酷いこと言われれば傷つくし、嫌なら離れるし、あなたのことだって傷つける。それが私とAIの違いだし、あなたが訊いた私らしさだよ。わかる? あなたが私を傷つけたから、私は私らしく今あなたに怒ってるの」
「う、うん……」

 私の言葉にそう頷いて、ジッと次に私にかけられる言葉を待つ岬ちゃんに――もうダメだと思った。
 この人はダメだ。訊くだけで、待つだけで、何も考えてない。考えようとしてくれてない。
 だって、普通だったらここで謝ってくれるものじゃないの?
 呆気に取られて思考が追いついてないこの感じに、本当に友達だなんて考えが頭の中にこれっぽっちもなかったんだなと思った。友達相手だったら少しも自分の中に返せる反応がないなんて、そんなことはないだろうから。
 なんとか仲直りしようって、なんとか許してもらおうって思いもしないんだ……もう、いい。
 これ見よがしにため息をついてみせた。それならもういいですって。私が待ってあげる時間はもう終わりですよって。

「岬ちゃんはさ、今回のこれを教訓にしてこれからはもっと気をつけな。気づいてないと思うけど、岬ちゃんは考え方も言葉もキツいから」

 それがこの子の面白いところだと思ってたはずなのに……今はもう、そんな岬ちゃんのことをどうしても許せない自分が居る。
 なんでだろう。仲良い友達になれたと思ってたからかな。信じてたのに裏切られたからかな。
 あ、違う。そもそも友達だと思われてなかったんだった。
 だったらもうどうでもいいか。これでもう関わりも無くなるんだし。

「じゃあ、私はもう教えてあげられないからね。あとは自分で頑張りな」
「え……っ、なんで?」
「なんでって、AIと同じなら私じゃなくてもいいでしょ?」

 そして、もう話すこともないか、と思いながらきっぱりと断ち切るつもりでその場を離れる一歩を踏み出した、その時だ。

「ま、待って!」

 岬ちゃんが、私を呼び止める。
 そして、
 
「私の考え方も言葉もキツいってどういうこと?」

 ――この後に及んで、AIにするみたいにそんなことを訊いてくる。
 ほんと、どういう神経してんだよ……。
 無視して歩き続けると、次は、「私、酷いこと言った覚えない!」とか言ってくるからイラっときた。はいはい、自覚ないんだよね。私がなんで怒ってるのかもわかってないんだもんね。もう無視だ無視。自分で考えろって言ってんだよ。
 でも、次は思い切り腕を掴まれた。

「悩みは今解決したい! そう私に教えたのは遥ちゃんじゃん! ここでこのまま終わらせたくないの! 今ここで、遥ちゃんに教えて欲しいの! だからお願い、もうこれで最後にするから!」
「…………」

 必死に私の腕を引く彼女と目があった。まだ言うのかって、人をなんだと思ってるんだって呆れすらしたんだけど――その時にふと、前にみんなからかけられた言葉が頭に思い浮かんだ。

『最後まで面倒みなきゃダメなんだからね』

 多分、岬ちゃんの、もうこれで最後にするから、という言葉に引っ張られて思い出したんだと思う。
 ……確かに。悩みとの向き合い方を教えたのは私だ。長引かせないで、できそうなところから手をつけろって。
 だからって今いけると思う……? どう考えても今はそういうのじゃないよね? 本当にそういう空気をよんだり、時と場合で変える感覚がない人なんだな。
 ……でもまぁ、確かにそう教えたのは私だ。
 思うところはあるけれど、自分にも責任があるかと思い直し、だったら今がその面倒をみる最後の時だと決めて、

「……何?」

 岬ちゃんの質問に、付き合うことにした。
 目があった岬ちゃんは目を大きくして息を呑んだのち、悩む間もなくそれを口にする。

「どうして私のこと気が強いと思ったの?」

 あぁ、それか、と思った。さっき酷いこと言った覚えがないって言ってたもんなと。今までもずっとこの人は自分で自分の言ってることがわかってなくて、それがどう思われるのかに気づいてないのは目に見えてわかっていた。
 それが最後の質問なら、教えてあげる必要性はあるかもしれない。AIじゃない、私からの答えとして。

「最初の時にさ、なんでAIに訊くのかって訊いたら岬ちゃん、言ったじゃん。訊いてもわからなかったら時間の無駄だし、頭悪くて理解できないなら訊く価値ないからAIに訊くしかないって。私さ、そんなこと簡単に言っちゃう人初めて会ったなって思ったよ。あ、この人は周りの人間を見下しながら関わり続けてる人なんだって。だから正解でしか人と話したくなくてAIに訊くんだよね。それって全部自分のプライドの話でしょ? 自分とみんなは違うってはっきり言ってたもんね?」
「……?」

 ハッとした岬ちゃんはこれでもまだわからない、という顔をしていて、なんでそんなことに……みたいな、

「わ、私、確かにそう言ったけど……でも、そんなこと思ってないよ。思ったことも、ないのに」

 なんて、むしろ被害者面までしてくる。
 なんだそれ。

「いや、思ってなきゃ口から出てこないでしょ。私に懐いて見えたのもAI扱いしてただけなんだもんね? 私にだけ違う岬ちゃんを見せてくれてるはずだよ。だってみんなは頭の悪い人間達だけど、私は人間のことに詳しい、使い勝手のいいAIなんだもんね? ぜーんぶそういうの口に出してたよ。話してる中でよく感じてた」
「何それ……じゃあなんでそうやって感じた時に言ってくれなかったの?」
「それはそれで面白いなって受け入れてたんだよ。そういう人も居るんだってね。私の中ではそういう部分も含めて岬ちゃんだったし、私だけは岬ちゃんにとって違うんだって、特別な友達になったんだって思ってた」
「! ……っ、そうだよ、特別な友達だよ!」
「違うでしょ、自分の特別なAIでしょ。じゃなきゃ私のAIなんて言葉出てこないよ。そんな酷い言葉、冗談でも言えるわけない。私だったら友達に絶対そんなこと言えないし、私はそんな人と友達になりたいなんて絶対に思わない」
「…………」

 言葉をなくす岬ちゃんに、「まぁ、岬ちゃんは全部AIなんかに頼るくらい何もわかってない人だから仕方ないか」と煽るように続けると、悔しそうに岬ちゃんがグッと唇を噛んだ。
 そして、

「……違うもん、何もわかってないのは遥ちゃんだよ」

 そう言って、私をグッと睨みつけると、

「全部全部、間違ってる! 私の言葉はそんな意味じゃない!」

 初めて聞いた大きな声で、真っ赤にした顔で、岬ちゃんは言った。

「人を見下すなんてできるわけないじゃん、こんな頭悪くて人に教えてもらう価値もない私がさ」

 ――……え?
 あれ?と思った。それは確かに聞き覚えのあるフレーズみたいだったけど、なんか、私の中にあったものと全然違った意味に聞こえたから。
 でも、そんな困惑する私に岬ちゃんは気づいてない。

「仲間に入れてもらえてるだけありがたいのに、みんなが知ってて当たり前のことをわざわざ私に教える時間を作ってくださいなんて言えないよ。みんなは優しいから訊けば教えてくれるだろうけど、それなのに私の頭が悪くて理解できなかったらどうすればいいの? 人の時間をさく価値なんて私にないんだもん。AIに訊くしかないじゃん」

 ……それって、もしかして。

「じゃあ、みんなと違うっていうのは、」
「私みたいな何も知らないダメな奴がみんなと同じなわけないじゃん。みんなはAI使わなくても感覚でわかるんでしょ? でも私、自分じゃ何にもわかんないし。だからAIは私にとって自分の一部で、AIだけが私に付き合ってくれる、私にとってみんなと同じように生きてくためには必要不可欠な、大事な生命線だったの」

 ――まじか。

「……そんなに、AIが大事だったんだ……」

 そんなこと、思いもしなかった。
 完全に感覚がズレていたのだ。AIに対してだけじゃない、人間としての価値観の部分まで全部だ。
 え、そんなことある?
 そんな人居る?
 いや、居るんだよ、目の前に。
 そうだよ、始めからそうだった。方向性は違っても、この人はそういう人とズレた人だって今の今まで思ってたところじゃないか。
 じゃあもしかして、そんな大事なAIに置き換えられる分だけ私のことを大事に思ってくれてた――なんて、そんな意味の言葉だったなんてこと、あったりする?

 それは初めて直面する考え方で、今までの全てがひっくり返った感覚に思わず言葉を失ってしまった瞬間だった。だけど岬ちゃんはやっぱりそんな私に気づかないまま、あっさりと、「そうだよ」と、岬ちゃんの正解を提示する。

「私ってこんなだし、みんなのことも友達だって自分から言っていいのかもわかんないし、遥ちゃんのことも……友達だなんて烏滸がましいよなってずっと思ってた。だって遥ちゃんはすごい人で、それなのに私に嫌な顔しないで付き合ってくれて、遥ちゃんが居れば私は大丈夫って……だから私にとってAIみたいっていうのは褒め言葉だったの。私の中で、私にとっての一番の……」

 そこまで言って、岬ちゃんは急に不安になったのか、私の顔色を窺うようにチラリと見たかと思うと、シュンと小さくなってしまう。

「でも、みんなにとっては違うよね。私にとっては私よりAIのが偉いというか、すごく価値のある存在だから、普通のみんなは違うっていう感覚を忘れちゃってた。人間をAIに例えるなんて本当は失礼なことだよね……遥ちゃんを道具としてみてたとか、利用してたとか、そういう言葉に聞こえちゃってたんだよね?」

 そして、「傷つけてごめんね」と、岬ちゃんは謝った。

「遥ちゃんとはみんなと違ってダメな私前提で付き合えたから楽だったし、楽しかったんだ。間違えても教えてくれるし、遥ちゃんのことを正しいって信頼してる分だけ遠慮なく甘えられたというか……許してくれるからどんどん普通の人間のつもりになって調子に乗っちゃった。元々私は人とズレてて上手くできない人間だからAIと話すようになったはずなのに。それを忘れてたくさん嫌なこと言っちゃってたんだね。ごめんね本当……こんな私じゃダメだよね」

 落ち込んでしまった岬ちゃんはさっきまでの勢いをすっかりなくしてしまっていて、「今まで私のために時間を使わせてしまってごめんなさい」なんて正式に頭を下げてくる。
 ――私は、なんてことをしてしまったんだろうと思った。

「こちらこそ、ごめんなさい」

 だって、岬ちゃんはずっと岬ちゃんのまま私に心を開いてくれていたのに、それに気づけなかった。
 それができるのが私で、だから岬ちゃんに提案したはずだったのに。

「私、察するのが得意って言ったじゃん? 自信があった分、自分が間違ってるなんて思いもしなくて、勝手に岬ちゃんの言葉を勘違いしたまま受け取って、そういう人なんだって決めつけてた……こんなに気が弱くて気遣いばかりしてる、正反対の人だったのに」

 私は今までの岬ちゃんとのやり取りの中で、何を知って、何を見てきたんだろう。
 岬ちゃんから渡されたものをそのまま受け取って、考えもしてこなかったのは私の方だったんだ。ずっと岬ちゃんは私を信頼して、私にだけ本当の自分を見せてくれてきたのに、そこに嘘なんて一つもなかったのに。
 それなのに今、私達の今までに思い切り泥を塗ったのは――私だ。

「ごめんほんと、全部私が悪い。ごめんね、こんなに責めて、一方的に怒っちゃって……」
「! いいのっ、人間関係のそういうこと前からあったのに、遥ちゃんと仲良くなれて嬉しくてすっかり忘れちゃってた私が悪いの。もっとちゃんと私がダメな奴だって伝えられてれば良かったんだよ」
「違うよ。岬ちゃんはダメな奴なんかじゃない。ダメなのは私の方。私が教えてあげる、なんて偉そうなこと考えてたからこうなったんだ。自分の感覚が正しいって、正解を見つけるのが得意だって、だから岬ちゃんはこういう人だって、もっとちゃんと言ってることと岬ちゃんの様子を見られてたらわかることだってできたはずなのに、まるで先生みたいな立場になった気分で調子に乗って……最後には嫌なこと言われたって、岬ちゃんを否定することしか考えられなくなってた。なんでそんな風に言うのかなって考える余裕もなくなって」

 酷い言いようだった。岬ちゃんがこっちを責めないことがわかってたみたいに。岬ちゃんを最悪な人間に仕立て上げて自分が間違えてる可能性なんて考えもしなかった。
 岬ちゃんにとってのAIがどんな存在かなんて、ちょっと考えればわかったはずなのに。
 正解を知るには決めつけないで今に目を向けていかないといけないって知ってたのに。
 それこそ私の得意分野だったはずなのに。
 それなのに感覚を鈍らせて、それに気づけなかった理由なんて単純だ。

 私が岬ちゃんを下に見てたから。

 高校生なら誰にでもわかるようなことがわからない、雑談すらできない人だって。
 AIにしか心を開けない、周りの人間よりAIを信じることで自分を守ってる愚かな人だって。
 ついには私しか頼りにできなくなった、可哀想で可愛い人だって。
 それを岬ちゃんという人間の正解だと決めつけて、それ以外の情報を集めようともしなかった。
 友達だと思いながら対等だとは思ってなくて、それが私と岬ちゃんの関係性の正解だと勝手に定めてきた。
 最悪だ――下に見てたのも、違うと決めつけてたのも私の方。岬ちゃんと私、全部が逆だったなんて――それに今にならなきゃ気づけなかったなんて、私はなんて、最悪な人間なんだろう。

「でも私、嬉しかったよ」

 すると、罪悪感に苛まれて真っ黒になる私の頭の中に、明るい色をした岬ちゃんの言葉が入ってきた。まるで迷子の私を導く、優しく灯った明かりのように。

「だって遥ちゃんみたいなすごい人でも怒るし、嫌なことも考えるし、間違えることもあるんだって知れたし、遥ちゃんが私のことを友達だって思ってくれてたんだってわかったから」

 そして、「怒らせちゃって嫌な気持ちにさせちゃったなってもちろん反省はしてるんだけどね?」なんて言いながら、俯く私を覗き込み、優しく微笑みかけて、「私ね、今わかったことがあるの」と真っ直ぐに私に向かって言葉を繋ぐ。

「私達はさ、一緒に居るようになってからずっと友達だったんだよね。でもさ、今こうして言い合わなかったら仲はいいけどどこかズレたままだったわけでしょ? ズレを埋めなくても気づかないまま上手くいくこともあると思うけど、でも今私達はそれに気づいたからこうやって悪い部分も含めて本当の自分達がわかりあえたよね」
「……そう、だね。それは本当にそうだと思う」
「でしょ? つまりそれって、こうやって間違えなきゃ辿り着けなかった二人の答えであって、それはきっとあなたと私がすれ違ったからこそ生まれた、私達らしさを持った私達だから辿り着けた正解なんだと思う」

 ――ハッとした。
 確かに、私達にズレが見つかったのは私達が持つお互いの正解じゃない、間違ってる部分が際立ったせいで、それは私達にとって一つもよくない、最悪な不正解だと思っていた。
 でも岬ちゃんは、それを“私達らしさ”という言葉に置き換えてくれて、その途端に自分の中で最悪だと思っていた間違った部分を、それも私だし私達だと認められる感覚が芽生えてきたのだ。
 だって、きっと私は岬ちゃんに出会わなければこんな嫌な自分が居るのにだって気づけないままだったし、きっと岬ちゃんにとってもそういう部分は同じだったんだと伝わってきたから。だからそのせいでぶつかった私達のことを、そんな自分達を知り合った私達のことを、私達の正解、なんて言葉に言い換えてくれたんだと思うから。
 全く違う生き方をしてきた私達だからこそすれ違って、そうやって間違えなきゃ辿り着けなかった、私達が私達じゃなきゃ見つからなかった正解に今、辿り着いているなんて、

「そんなの……二人でぶつからなきゃ、わかるわけないね」
「うん。一人で考えて悩んでても、AIに訊いてもわかんないよね」
「でも私、嫌な奴だった。岬ちゃんのこと下に見てたよ」
「そりゃそうだよ。私にそんな価値ないもん」
「それダメ、やめて。岬ちゃんがわかってなかったのは、ずっと人のことを気遣い過ぎてたからってだけなんだから、そんな言い方しないで。真っ直ぐに私の話を受け入れて実践してくれて、新しい見解を私に教えてくれる、こんなこと言う嫌な私でも許してくれる優しい人だもん」
「それはこっちの台詞だよ。ずっと私が言った嫌な言葉を私の個性だって思って受け入れてくれてきたんでしょ? 今だって私が違うんだって説明したらすぐ受け入れてくれて、自分の反省までして……遥ちゃんはずっと自分のことも人のことも、全部わかった上で善悪で判断しないでくれる人なんだよ。自分が傷つくまでこんな私を悪いものだって否定しないでくれてたなんて、優しい人だなって思う」

 それは優しい岬ちゃんから見た私の姿。私への見解。
 ……私は、優しい人。

「……私達、優しいところだけ同じだね」

 受け入れてみると、お互いに優しくしあってた今までの私達は真実なのだと、簡単に気が付けた。

「そうだね。きっと私達のズレてるところはお互いの優しいところが埋めてくれるんだろうね」

 ――ズレてるところは、優しいところが埋めてくれる。

 もしかしたらそれって、今の私達だけじゃない、今までの私達、更には世の中のいろんなものに当てはまる正解なんじゃないかな。
 そう思い至った瞬間、今までの世界に溢れる優しさの経験が湧き上がる感覚があった。
 これは岬ちゃんと関わらなかったら得られなかった感覚で、岬ちゃんが岬ちゃんだから私に教えてくれたこと。
 ――岬ちゃんは今、何を感じてる?

 私の視線に応えるように、岬ちゃんはじっと私を見つめ返すと、柔らかな声でそれを告げた。

「ありがとう、私の友達」

 友達、か。じゃあ私は、

「次は岬ちゃんの親友を目指そうかな」

 そう、次の目標を提案すると、岬ちゃんが目を大きくして驚きながら、嬉しそうに、「うん! 私も!」と頷いてくれた。
 その綺麗な長い髪から覗いた耳には、さっき私にくれたピアスと色違いの、岬ちゃんに似合うピンク色をした石がキラリと光っていた。