テレビでボカロのニュースが流れていたのは、買ったソフトでようやく一曲作り終えた頃だった。
昔ボカロPとして活動していた人気歌手が、自分の曲を歌い直したらしい。画面には元の動画と、本人が歌う映像が交互に映っている。
「へ~、かわいい」
「絵は可愛いかもしれんが、歌はよく分からん。本人が歌っている方がずっといいだろ」
「そんなの好みの違いでしょ」
みこ姉と父のやり取りを聞きながら、俺はスマホを伏せた。さっきまで、自分の曲を投稿する方法を調べていたところだった。危ない。
「機械だけで音楽を作って、機械に歌を歌わせるなんて、何がいいのか分からない」
「え~でも翻訳アプリとかあるじゃん」
「翻訳機は確かに便利だ。だが、自分の言葉じゃないだろう。ああいうのは旅行のときに使うくらいなら分かるが、ずるのように感じるな」
ずる。
その何気ない父さんの言葉は今の俺に刺さる。
俺はまさに、アプリやボカロを翻訳機のように思っていた。完全に同じじゃないけど、音楽を嗜む家族や優太と、同じ音楽の話ができるようになるんだって。
「少なくとも、本当の歌や演奏とは違う」
「えぇ~っ古! 音楽に本当も何もないでしょ」
「美琴、お前もジャズや伴奏ばかりやっていないで」
「あーヤダヤダ! 押し付けお説教なんて聴きたくなーい! 行ってきます!」
姉さんは鞄を持ち、さっさとリビングを出ていった。俺もスマホを持って立ち上がろうとすると、父に呼び止められる。
「尚人、学校はどうだ」
「別に普通。勉強も今のところ大丈夫」
「そうか。分からなくなる前に、ちゃんと先生に聞くように。塾増やしたかったら言いなさい」
「分かってる」
父は、才能がないならそれに無駄な労力やお金をつぎ込まず、もっと芽がありそうなものに力を入れろという、効率厨のような考え方で、それが親の務めだと思っているからこそ俺は早々に才能なしと判断され、今に至る。
正当に純粋に磨き上げたものは確かに美しい。でも、そのほかを貶す理由にはならない。
……曲を作っていることはみこ姉には言ってもいいんだけど、すぐペラペラ喋るからな。階段を上がりながらスマホを開き、途中だったページへ戻った。
優太が漫画を読んでいる横で、俺は作曲ソフトの解説を見ていた。もちろん、スマホで。パソコンを開けば、何をしているのか覗かれるに決まっている。
「お前、ボカロって聞くんだっけ」
「んー、あんまり。歌ってみたとかセルフカバーなら聞くけど」
「元のは?」
「あんまり好きじゃないんだよね、声が。人が歌ってる方が好き」
「……ああ、そう」
曲を作っているなんて、一言も言っていない。俺が使っている声を聞かせたわけでもないのに、何となくスマホの画面を閉じてしまった。
「何かいいのあった?」
「別に。ちょっと流れてきたから」
「そっか」
優太は漫画の続きに戻った。特に不審がってはいない。
何をしているのか根掘り葉掘り聞かれても困るし、教えるつもりもない。優太の知らないことをしてみたかったんだから、これでいい。
「どうかした?」
「ううん、何も」
優太にそう返事をして、俺は閉じたばかりの画面をもう一度つけた。
昔ボカロPとして活動していた人気歌手が、自分の曲を歌い直したらしい。画面には元の動画と、本人が歌う映像が交互に映っている。
「へ~、かわいい」
「絵は可愛いかもしれんが、歌はよく分からん。本人が歌っている方がずっといいだろ」
「そんなの好みの違いでしょ」
みこ姉と父のやり取りを聞きながら、俺はスマホを伏せた。さっきまで、自分の曲を投稿する方法を調べていたところだった。危ない。
「機械だけで音楽を作って、機械に歌を歌わせるなんて、何がいいのか分からない」
「え~でも翻訳アプリとかあるじゃん」
「翻訳機は確かに便利だ。だが、自分の言葉じゃないだろう。ああいうのは旅行のときに使うくらいなら分かるが、ずるのように感じるな」
ずる。
その何気ない父さんの言葉は今の俺に刺さる。
俺はまさに、アプリやボカロを翻訳機のように思っていた。完全に同じじゃないけど、音楽を嗜む家族や優太と、同じ音楽の話ができるようになるんだって。
「少なくとも、本当の歌や演奏とは違う」
「えぇ~っ古! 音楽に本当も何もないでしょ」
「美琴、お前もジャズや伴奏ばかりやっていないで」
「あーヤダヤダ! 押し付けお説教なんて聴きたくなーい! 行ってきます!」
姉さんは鞄を持ち、さっさとリビングを出ていった。俺もスマホを持って立ち上がろうとすると、父に呼び止められる。
「尚人、学校はどうだ」
「別に普通。勉強も今のところ大丈夫」
「そうか。分からなくなる前に、ちゃんと先生に聞くように。塾増やしたかったら言いなさい」
「分かってる」
父は、才能がないならそれに無駄な労力やお金をつぎ込まず、もっと芽がありそうなものに力を入れろという、効率厨のような考え方で、それが親の務めだと思っているからこそ俺は早々に才能なしと判断され、今に至る。
正当に純粋に磨き上げたものは確かに美しい。でも、そのほかを貶す理由にはならない。
……曲を作っていることはみこ姉には言ってもいいんだけど、すぐペラペラ喋るからな。階段を上がりながらスマホを開き、途中だったページへ戻った。
優太が漫画を読んでいる横で、俺は作曲ソフトの解説を見ていた。もちろん、スマホで。パソコンを開けば、何をしているのか覗かれるに決まっている。
「お前、ボカロって聞くんだっけ」
「んー、あんまり。歌ってみたとかセルフカバーなら聞くけど」
「元のは?」
「あんまり好きじゃないんだよね、声が。人が歌ってる方が好き」
「……ああ、そう」
曲を作っているなんて、一言も言っていない。俺が使っている声を聞かせたわけでもないのに、何となくスマホの画面を閉じてしまった。
「何かいいのあった?」
「別に。ちょっと流れてきたから」
「そっか」
優太は漫画の続きに戻った。特に不審がってはいない。
何をしているのか根掘り葉掘り聞かれても困るし、教えるつもりもない。優太の知らないことをしてみたかったんだから、これでいい。
「どうかした?」
「ううん、何も」
優太にそう返事をして、俺は閉じたばかりの画面をもう一度つけた。


