楠に正体を明かしたのは、そのあとだった。
会社からの話を進めるにしても、今まで絵を描いてくれた相手には、自分から説明したかった。優太に間へ入ってもらい、学校帰りに会うことにした。
「……そんな漫画みたいなことある?」
「そう言われても、事実で現実だから、あるとしか言いようがない」
スマホを見せると、楠はアカウントと俺の顔を何度か見比べた。それから優太の方を向く。
「二人して何やってんの」
「おっしゃる通りです」
「僕、イベントの時、本人の前で話してたんだ」
「うん。すごい恥ずかしかった」
「それ、こっちの台詞なんだけど」
優太が笑ったので、お前もだろと二人で言った。
ひとしきり驚かれたあと、会社から来た話も、まだ決まっていないことを含めて伝えた。今頼んでいる絵はそのまま進めてもらうと話すと、楠はスマホで予定を確かめた。
「分かった。変更あるなら早めに言ってね」
話が通じるのが早くて助かる。
俺が礼を言うと、楠はまだ何か気になるらしく、こちらを見ていた。
「……何?」
「いや、納得した。優太が好きそうな曲ばっかりだったから」
「まあ、それはそう」
「優太も、尚人に合うって言われたとか、こうした方がいいって言われたとか、ずっと言ってたし」
「そういうの言わなくていいから」
今度は優太が止めに入ったが、楠は気にせず俺の方へスマホを向ける。
「じゃあ、今度から絵の相談もこっちに送っていい?」
「いいよ。分けなくて済むの、助かる」
「それ自業自得じゃん!」
苦笑いしながら連絡先を確認し、次の曲のイメージを聞いてもらった。
それからは、曲のことを三人で話すことも増えた。
楠にも話したしということで、優太の希望で黒瀬にも、俺がotoだということは伝えることになった。
優太から話していいかと聞かれ、いいと答えたのは俺だ。けれど、実際に会うとなると、何を言われるか少し身構えながら、優太も一緒に、ファストフード店の端の席へ座った。
黒瀬は待ち合わせの時間どおりにやってきて、しばらく驚いたように俺を見てから、ようやく口を開いた。
「……本当にお前だったのか」
「そうだよ」
「いや、意味分かんねぇ」
「それはもう、色んな人から散々言われた」
優太は黙って飲み物を持っている。何から話すつもりなのだろうと思っていたら、黒瀬が先に視線を動かした。
「この間の、有名にとか、売れた方がいいんだろってやつ。悪かった」
黒瀬の素直な謝罪に優太が顔を上げる。
「いや……俺も、休むって言ってそのままにしてたから、ごめん」
それだけ言って、二人とも黙った。
俺まで何か言うのも違う気がして、飲み物を一口飲む。
「俺、ずっとotoに嫉妬してたんだよ」
今度は俺に向けて言われた。
「優太取られてさ。高校行ったら本格的にバンドやろうって言ってたのに、そっちばっかりになって」
「……うん」
「お前には分かんないだろうけど」
「分かるも何も」
思わず返すと、黒瀬が少し驚いた顔をした。
「嫉妬なんかな、俺は物心つく前からずっとしてるんだよ。ずーっとな。歌にしたって楽器にしたって、才能がないとかそんなレベルじゃないの、中学同じだったんだから知ってるだろ」
「……まあ」
「俺だってちょっとでも何かできたら、優太とバンドとか一緒にやりたかったよ。でも、できないから、お前らが一緒にやってるの指くわえて見てるしかなかったんだし」
そう言ってから、優太が隣にいるのを思い出した。今さら止めても遅い。俺は飲み物を机に置き、続けた。
「……つまり、嫉妬してんのが自分だけだと思うなよってこと」
「……お前、キャラ違くねぇ?」
「何が」
「中学のとき、もっと斜に構えて、『優太以外興味ありません』って感じだったじゃん」
「……そんなつもりはないけど、俺は、記憶ある限りずっと優太の歌が好きなんだよ。だから、こういうの歌ったらいいのにとか、もっとこんなのも合うのにとか、思うことはあった」
「それで作ったの聞いて、優太がDM送ってまで歌わせてくれって? 出来過ぎだろ」
「それは俺もそう思う。だって一番びっくりしたのは俺だよ」
隣で優太が頷いた。
「俺も尚人だって知らなかったし」
「知ってたら逆に怖いわ」
そう言った黒瀬が、ようやく少し笑った。
「俺だって優太の歌、好きだけどさ。優太がよそで歌い始めてから、慌てて曲を作り始めたもんな」
「先に始めた方が相手のことを好きってわけじゃないとは思うけどね。俺は年季だけなら誰にも負けないし最古参だけどさ、別に優太のために始めたわけじゃないし」
「は?」
「俺だったらこういうの歌ってもらうのにって、フラストレーション発散のためだよ。それを見つけてくれたのが、たまたま優太だったってだけ。バンドがなくなればいいと思ってたわけじゃないけど、コピーばっかりなのは勿体ないと、俺もずっと思ってた」
「それ言われるの、俺も嫌なんだよ。オリジナルやってなきゃ本気じゃないみたいで」
返されて、俺は口を閉じた。バンドメンバーが何をどれくらい練習していたのかまでは、知らない。
「……それは、そうだな」
そこだけは頷いたが、優太の歌に合う曲をもっと作れよ選べよと思うのは変わらなかった。
俺もそこで話をやめ、ポテトに手を伸ばした。冷めかけていたが、何も食べずに喋っていたので腹が減っていた。
「バンドはどうすんの」
俺が聞くと、黒瀬は優太の方を見た。
「ほかのやつに歌ってもらってる。次の文化祭も、そいつでやるつもり」
「そっか」
冷めると不味いなと思いつつ手を伸ばすと、黒瀬も一本取った。
帰り道、優太と二人になってから、妙に静かなことに気づいた。
「どうした?」
「いや、何か……いっぱい聞いたなって」
「何を」
「尚人が、俺と一緒にやりたかったって」
「お前、今日はバンドの話をしに行ったんだから、そっちに集中しろ」
「それも考えてるよ」
絶対そうじゃない顔だ。俺が歩くのを速めると、優太も隣へ並んだ。
「嬉しかった」
「……そうですか」
「うん」
「別にお前に聞かせようとして言ったんじゃないからな」
「でも聞こえたもん」
優太が俺の方へ寄ってきたので、歩きながら肩で押し返した。人に見られるからとかではなく、今の顔を見られたくなかった。
その日は駅前で別れた。優太にはバイトがあって、俺も直したい曲があった。
会社からの話を進めるにしても、今まで絵を描いてくれた相手には、自分から説明したかった。優太に間へ入ってもらい、学校帰りに会うことにした。
「……そんな漫画みたいなことある?」
「そう言われても、事実で現実だから、あるとしか言いようがない」
スマホを見せると、楠はアカウントと俺の顔を何度か見比べた。それから優太の方を向く。
「二人して何やってんの」
「おっしゃる通りです」
「僕、イベントの時、本人の前で話してたんだ」
「うん。すごい恥ずかしかった」
「それ、こっちの台詞なんだけど」
優太が笑ったので、お前もだろと二人で言った。
ひとしきり驚かれたあと、会社から来た話も、まだ決まっていないことを含めて伝えた。今頼んでいる絵はそのまま進めてもらうと話すと、楠はスマホで予定を確かめた。
「分かった。変更あるなら早めに言ってね」
話が通じるのが早くて助かる。
俺が礼を言うと、楠はまだ何か気になるらしく、こちらを見ていた。
「……何?」
「いや、納得した。優太が好きそうな曲ばっかりだったから」
「まあ、それはそう」
「優太も、尚人に合うって言われたとか、こうした方がいいって言われたとか、ずっと言ってたし」
「そういうの言わなくていいから」
今度は優太が止めに入ったが、楠は気にせず俺の方へスマホを向ける。
「じゃあ、今度から絵の相談もこっちに送っていい?」
「いいよ。分けなくて済むの、助かる」
「それ自業自得じゃん!」
苦笑いしながら連絡先を確認し、次の曲のイメージを聞いてもらった。
それからは、曲のことを三人で話すことも増えた。
楠にも話したしということで、優太の希望で黒瀬にも、俺がotoだということは伝えることになった。
優太から話していいかと聞かれ、いいと答えたのは俺だ。けれど、実際に会うとなると、何を言われるか少し身構えながら、優太も一緒に、ファストフード店の端の席へ座った。
黒瀬は待ち合わせの時間どおりにやってきて、しばらく驚いたように俺を見てから、ようやく口を開いた。
「……本当にお前だったのか」
「そうだよ」
「いや、意味分かんねぇ」
「それはもう、色んな人から散々言われた」
優太は黙って飲み物を持っている。何から話すつもりなのだろうと思っていたら、黒瀬が先に視線を動かした。
「この間の、有名にとか、売れた方がいいんだろってやつ。悪かった」
黒瀬の素直な謝罪に優太が顔を上げる。
「いや……俺も、休むって言ってそのままにしてたから、ごめん」
それだけ言って、二人とも黙った。
俺まで何か言うのも違う気がして、飲み物を一口飲む。
「俺、ずっとotoに嫉妬してたんだよ」
今度は俺に向けて言われた。
「優太取られてさ。高校行ったら本格的にバンドやろうって言ってたのに、そっちばっかりになって」
「……うん」
「お前には分かんないだろうけど」
「分かるも何も」
思わず返すと、黒瀬が少し驚いた顔をした。
「嫉妬なんかな、俺は物心つく前からずっとしてるんだよ。ずーっとな。歌にしたって楽器にしたって、才能がないとかそんなレベルじゃないの、中学同じだったんだから知ってるだろ」
「……まあ」
「俺だってちょっとでも何かできたら、優太とバンドとか一緒にやりたかったよ。でも、できないから、お前らが一緒にやってるの指くわえて見てるしかなかったんだし」
そう言ってから、優太が隣にいるのを思い出した。今さら止めても遅い。俺は飲み物を机に置き、続けた。
「……つまり、嫉妬してんのが自分だけだと思うなよってこと」
「……お前、キャラ違くねぇ?」
「何が」
「中学のとき、もっと斜に構えて、『優太以外興味ありません』って感じだったじゃん」
「……そんなつもりはないけど、俺は、記憶ある限りずっと優太の歌が好きなんだよ。だから、こういうの歌ったらいいのにとか、もっとこんなのも合うのにとか、思うことはあった」
「それで作ったの聞いて、優太がDM送ってまで歌わせてくれって? 出来過ぎだろ」
「それは俺もそう思う。だって一番びっくりしたのは俺だよ」
隣で優太が頷いた。
「俺も尚人だって知らなかったし」
「知ってたら逆に怖いわ」
そう言った黒瀬が、ようやく少し笑った。
「俺だって優太の歌、好きだけどさ。優太がよそで歌い始めてから、慌てて曲を作り始めたもんな」
「先に始めた方が相手のことを好きってわけじゃないとは思うけどね。俺は年季だけなら誰にも負けないし最古参だけどさ、別に優太のために始めたわけじゃないし」
「は?」
「俺だったらこういうの歌ってもらうのにって、フラストレーション発散のためだよ。それを見つけてくれたのが、たまたま優太だったってだけ。バンドがなくなればいいと思ってたわけじゃないけど、コピーばっかりなのは勿体ないと、俺もずっと思ってた」
「それ言われるの、俺も嫌なんだよ。オリジナルやってなきゃ本気じゃないみたいで」
返されて、俺は口を閉じた。バンドメンバーが何をどれくらい練習していたのかまでは、知らない。
「……それは、そうだな」
そこだけは頷いたが、優太の歌に合う曲をもっと作れよ選べよと思うのは変わらなかった。
俺もそこで話をやめ、ポテトに手を伸ばした。冷めかけていたが、何も食べずに喋っていたので腹が減っていた。
「バンドはどうすんの」
俺が聞くと、黒瀬は優太の方を見た。
「ほかのやつに歌ってもらってる。次の文化祭も、そいつでやるつもり」
「そっか」
冷めると不味いなと思いつつ手を伸ばすと、黒瀬も一本取った。
帰り道、優太と二人になってから、妙に静かなことに気づいた。
「どうした?」
「いや、何か……いっぱい聞いたなって」
「何を」
「尚人が、俺と一緒にやりたかったって」
「お前、今日はバンドの話をしに行ったんだから、そっちに集中しろ」
「それも考えてるよ」
絶対そうじゃない顔だ。俺が歩くのを速めると、優太も隣へ並んだ。
「嬉しかった」
「……そうですか」
「うん」
「別にお前に聞かせようとして言ったんじゃないからな」
「でも聞こえたもん」
優太が俺の方へ寄ってきたので、歩きながら肩で押し返した。人に見られるからとかではなく、今の顔を見られたくなかった。
その日は駅前で別れた。優太にはバイトがあって、俺も直したい曲があった。


