恋が終われば歌となる―片思い中の幼馴染と、正体を隠して音楽活動しています―

「優太おかえり。尚くん、久しぶりね」
「お邪魔します」
「話って何? お茶でいい?」
 優太の母さんには優太が先に連絡してくれていたらしい。リビングへ通され、俺は鞄を足元へ置いた。
 いざ座ると、どこから話せばいいのか分からない。隣の優太を見れば、こいつも俺を見ている。
「……俺が説明するんだよな」
「うん」
「何、二人とも」
 優太の母さんが笑いながら向かいに座ったので、俺はスマホを出して電源を入れ直した。
「優太が、ネットで歌を上げてるのは知ってますよね」
「もちろん。CDも見せてもらったわよ」
「はい。それで、一緒にやってる……曲を作ってるのは……俺なんです」
「え?」
 スマホで動画を開き、作詞作曲のところを見せる。自分でつけた名前なのに、指で示すのがめちゃくちゃ恥ずかしかった。
「このotoっていうのが、俺です」
「尚くん? え、二人でやってたの?」
「俺も今日知った」
 優太が答えると、優太の母さんは俺たちを交互に見た。
「今日?」
「……すみません。黙ってて」
「謝ることではないけど、びっくりしたわ。優太、ずーっとこの人の話してたじゃない」
「うん」
 俺も毎回聞いていたので、そこは知っている。
 高校に入ってから曲を作り始めたこと、正体を言わないまま優太に歌ってもらうことになったこと、今は音楽会社から話をしたいと連絡が来ていることを、順番に説明した。
 優太の母さんは途中で何度か聞き返したが、最後まで聞いてくれた。
「どうしてこうなるのかがよく分からないのだけど……それで、カナ……お母さんとお父さんには?」
「……今日、父さんにばれました」
「ばれた?」
「楽器屋から手紙が来て。それで曲を作ってるって言ったら、ちょっと揉めて」
「奏恵には言った?」
「いや……ツアーで忙しいだろうから、何も」
 優太の母さんは俺の顔を見て、少し困ったように息を吐いた。
「尚くん、こういうことは親が忙しいとか気にせず言っていいのよ」
「でも、まだ何も決まってないし」
「決まる前に相談するんでしょう。奏恵は普通に喜ぶわ」
 そう言いながら優太の母さんは自分のスマホを手に取る。俺が止める間もなく、何か打ち始めた。
「あ、ちょっと……」
「いいのよ、普段ほったらかしなんだから、こういう時くらい戦わせなさい」
「……戦う」
「お父さんと話すの、尚くん一人でやらなくていいってこと」
 隣で優太が頷いた。
 俺は机の上の自分のスマホを見た。父さんから新しい連絡は来ていない。
「とりあえず、カナとミコちゃんには私の方から連絡しておいたから――って」
 そう言った途端、優太の母さんのスマホが震えた。
「あ、カナ、久しぶり。今いいの? うん、尚くん、うちにいる。私からなんてやぁよ、カナの旦那めんどくさいもの」
 いきなりそう言われて、俺は優太と顔を見合わせた。
 優太の母さんは電話の向こうの返事を聞きながら、俺の前に置かれたお茶を指した。飲みなさいということらしい。冷めかけたお茶を一口飲んだところで、スマホが差し出された。
「はい、代わってって」
「……もしもし」
「尚人?」
「……うん」
「曲を作ってるって聞いたんだけど」
「そう。黙っててごめん」
「いつから?」
「高校に入ってから。買ってもらったパソコンで、作曲ソフト使って」
 さっき話したことを、もう一度説明する。相槌を聞いているうちに、父さんに何を言われたかまで口にしていた。
「そんなことのために買ったんじゃないって言われて。だから、勉強もちゃんとやってるって言ったんだけど、そういう話じゃないって」
「うん」
 そこまで言って、口を閉じた。小さい子の告げ口みたいになっている。
 電話の向こうで少し物音がして、母さんがもう一度俺の名前を呼んだ。
「尚人は、どうしたい?」
「……続けたい」
「会社の話も?」
「聞いてみたい。何するのか、まだ全然分からないけど。優太と一緒にやれるなら」
「分かった。メールとか転送してくれる? あと曲聞かせて」
「今?」
「うん。聞きたい」
 一度スマホを優太の母さんへ返し、自分のスマホで動画を開いた。どれにするか迷って、最初に優太と作ったものと、「薬瓶と花束」のリンクを送る。
 送ってしまってから、もっとほかの曲の方がよかったかもしれないと思ったが、取り消すのも変だ。
 優太の母さんが、じゃあまたあとで、と電話を切った。
「聞いてから、お父さんにも連絡するって。尚くんたちは、お茶飲んで待ってなさい」
「……すみません」
「だから、謝らなくていいの」
 スマホを握ったまま待っていると、みこ姉からも連絡が来た。
『今聞いたんだけど、この歌最近よく流れてるじゃん。優太くんと組んでるの尚人なの?』
『そう』
『え、すごい!』
 すぐに返ってきた文字を見て、何と返せばいいのか分からなくなった。
「美琴ちゃん?」
 優太が覗き込んできたので、画面を見せた。
「よかったね。まあ美琴ちゃんは普通に応援してくれるタイプだと思うけど」
「……うん」
 そのまま少し待っていると、母からも連絡が来た。
『聞いたよ。帰ったらほかの曲も聞かせて』
 続けて、父さんには話したので、今日は何も話さなくていいから帰ったら食事をして休むこと、家族で話す時間を作ることが書かれていた。
 明日の夜なら母さんも電話に出られて、響兄とみこ姉も家にいるらしい。
 俺はその文章を優太に見せてから、分かったと返した。
「今日話すなって母さんが父さんに言ったらしいけど、明日が怖い」
「……頑張れ」
 気の毒そうな目で見る優太に、俺は引きつった笑いしか返せない。でもこれは色んな人に黙ったまんまだった俺の自業自得でもあるので、俺が頑張るしかないのだ。