空に隕石が見えたら、アイスを食べようと思う

 今しか出来ないこと、その言葉が心に引っ掛かっている。
 こびりついているとか、焼きついているとか、忘れられないとか、そんな大層なものじゃない。ただ純粋に今しか出来ないことが思いつかないのだと思う。教室に入って、昨日と同じように凛華と顔を合わせる。昨日と違うことは、私から凛華に隕石の話題を振ったこと。

「ねぇ、凛華。昨日隕石のこと話したじゃん?」
「したね。風奈はあんまり乗ってくれなかったけど」
「それはごめん。でも、やっぱり私単純に怖いわ」
「それは私もだわ!」

 凛華がツッコミを入れながらも、仲間が出来て嬉しいという顔で頷いている。そんな凛華は今日も全く乱れていない綺麗な髪をしていた。

「凛華はもし本当に来年隕石が落ちるとしたら、何する?」
「急に現実的な話するじゃん」

 今まで非現実的すぎる話題だったものが、今日には現実的な話題に変わっている。そんな不確かな世界は嫌なのに。それでも、あんなに昨日騒いでいた凛華はあっけらかんと言い放った。

「とりあえず行きたかったアフタヌーンティー全部行く。バイト代使い果たしてこの世の甘いもの食いまくる」
「身体に悪いって!」
「どうせ一年しか生きられないんだから良いでしょ」

 確かにそうだし、凛華の言うことはよく分かる。でも、だからこそ思うのだ。

「今の状況だったら……」
「流石にしないよ。だって来年以降生きられた時に怖いし」
「だよね……」

 昨日見たコメントがもう一度頭をよぎる。

『ていうか、5%って微妙じゃね?』

 微妙というか後先考えずにやりたいことが出来ない確率なのだろう。それが5%というものらしい。

「で、風奈は?」

 凛華に問いかけられたお陰で私は考えないようにしていた想定を考えられた気がした。

「私は多分来年100%隕石が落ちるなら高校辞めて家でずっとゲームする」
「それで良いの!? いつでも出来るじゃん!」
「だって私ゲームオタクだし。誰に何言われても一日中ゲームする」

 私はそう言いながらも、凛華の「いつでも出来る」という言葉を聞いて、昨日理解出来ずに終わった自分の感情が分かった気がした。

「凛華。私、とりあえず今しか出来ないことをする」
「急に何!?」

 きっと私はただ単に後悔したくないんだと思う。後先考えずに思いっきりしたいことが出来ない状況で、ゲームをするために高校を辞めることも出来ない。全てを投げ打ってしたいことは出来ないけれど、何かあった時に後悔もしたくない。

 ならば、5%が起きた時に自分の心を納得させられる何かが欲しい。

「もし来年隕石が落ちた時、17歳にしか出来ないことをやり切ったって思いたい」

 きっと私は意味が分からない話をしているはずなのに、凛華はしばらく考えたあと何故か楽しそうに笑い出した。

「案外、良いかも。賛成」

 来年隕石が落ちようと落ちまいと、私たちが今日生きていることは事実らしい。

 *

 そんな大層なような大層でないような話を凛華としたとしても、それからすぐにテスト週間に入り、私たちがやりたいこと会議を開催出来たのは学年末テストを無事に終えてからだった。カフェで向かいに座る凛華がテスト疲れでぐったりとしている。

「マジで疲れた……」
「まぁ無事に終わったから良いじゃん」
「まだ結果返ってきてないじゃん!」
「結果を見る前の方が幸せな時もあるって」
「それはそう」

 お互いにテスト返却で落ち込む前にやりたいこと会議を済ませておきたいのは一緒なようだった。凛華がいつもならカロリーを気にして頼まないであろうクリーム盛り盛りのチョコパフェを注文している。ちなみに私はケーキセット。

「今日はパフェ食べるんだ?」
「うん。食いまくりは出来ないけど、後悔しないように多少食べとくことにした」
「その量は多少じゃなくない?」
「余計なお世話です」
「うそうそ。私も最近ダラダラせずにゲームしてる」
「ダラダラせずにゲームって、なんだそれ」

 凛華がくすくすと楽しそうに笑っている。見慣れたその凛華の笑顔ですら、来年隕石が落ちたら見れなくなるらしい。意味は理解しているのにまだどこか理解していないような、頭が現実逃避しているような感覚だった。

「で、どうする?」

 パフェとケーキセットが届き、凛華がパフェを3口食べたあたりで話し始めた。

「今しか出来ないことをするんでしょ?」
「うん」
「ていうか、今しか出来ないことってなに?」

 その作戦会議をするためにカフェに来ているのだが、いざ改まって聞かれると余計に分からない。私は悩みながらも言葉を絞り出した。

「とりあえず18歳になったら出来ないことしときたいな」
「18歳になったら出来なくなること!? 逆に!?」

 凛華が「成人したら逆に出来なくなることなんてあるっけ……?」と呟きながら、パフェに入っている生チョコを大切に頬張っている。生チョコの糖分で頭が冴えたのか凛華が何かを(ひらめ)いたようだった。

「制服デートとか?」
「それは高校生の間しか出来ないことじゃん。それに私たち彼氏いないでしょ」
「彼氏がいないのはいま関係ない!」
「凛華が制服デートって言うからじゃん」

 もっと言えば、15〜18歳の間に高校に通う人が多いだけでそうじゃない人もいる。高校生にしか出来ないことを探すのも難しいが、17歳にしか出来ないことを探すのはもっと難しい。そして、今しか出来ないことを探すのはさらに難しいのだ。
 難しい表情をしたまま固まった私の顔を凛華が覗き込んだ。

「風奈、悩んでる?」
「悩んでる……と、思う」

 「風奈ってそういうとこ真面目だよね」と凛華が笑っている。馬鹿にしているような笑いじゃなくて、こんな私を好いてくれているような笑い方だった。

「風奈は難しく考え過ぎなんだよ。まぁそれが風奈だから、私がもっとこの問題を難しくさせてやろう!」

 いたずら好きの子供のように凛華が心底楽しそうなに口角を上げた。

「『今しか出来ないこと』を探すんじゃなくて、『今の風奈しか出来ないこと』を探した方が良いんじゃない?」

 そして、さらに私に追い打ちをかけるように言葉を続ける。

「考えているうちに隕石が落ちないようにね」

 多分凛華なりのアドバイスをくれたのだろうが、思いっきりドヤ顔をしている凛華にちょっと意地悪をしたくなってパフェに乗っているチョコを一個ヒョイっと口に入れた。

「ああー!!!」
「凛華の好きな生チョコは避けたじゃん」
「生チョコ食べてたら三日は口聞かないわ!」
「チョコの恨み強過ぎない?」

 結局その後に凛華が私のケーキを1口……いや、3口サイズの1口を取っていった。それ以上は今しか出来ないことを話し合うこともなく、テスト終わりの開放感で他愛のない話を満足するまでし続けた。