贄の公主と降魔の王 ~黒衣を纏う花嫁は、年下王の最愛になる~

◇◆
 今でも、私は夢を見る。
 莫が滅ぶきっかけの一因。私の最大の過ちを……。

 そう、忘れもしない。
 あれは十一歳の頃だった。
 莫に大量の魔物が出現した。
 私は安っぽい正義感から、視察に行きたいと、父に頼んだ。
 自惚れていたのだ。
 魔物を斃すことは出来ずとも、多少、呪い事も学んでいるし、子供の自分でも、何か役に立つのではないかと、そんなふうに考えていた。
 周りは反対したが、末っ子の私に甘い父は、被害が沈静化した地域限定で、私の視察を許可した。
 しかし、その認識は甘かった。
 丁度、私の目の前に魔物が出現したのだ。
 巨大な真っ黒な塊が根こそぎ、物を、人を……蹂躙していく。
 私の自尊心は木っ端微塵に砕け散り、縫い付けられているかのように、その場から動けなくなってしまった。
 そんな私を助けてくれたのは、父の片腕。東の将軍の弘毅(ホンイ―)だった。

「琳娜さま! お逃げください!」

 ……そして。

「逃げて! 琳娜!」

 大好きな姉様。
 弘毅をひたむきに愛し、私に呪い事を教えてくれた大切な人だった。
 二人は結婚を控えていたが、私を心配して、一緒について来てくれたのだ。
 魔物の咆哮。
 弘毅も姉様も、私の目の前で、黒い霧の中に消えて行った。

「行かないで! 私が死ぬから!! 姉様! 弘毅!」

 声を枯らすほど泣いて、命からがら、都に帰ってきた私が目にしたのは、国中に魔物が出現しているという非常事態だった。
 亮に助けて欲しいと、何度も文をしたためたが、色よい返事はなく、そのうち、こんなに魔物が出現するようになったのは王の失政が原因だと、国民は王族に恨みを抱くようになった。
 父は急死した。
 他の兄弟たちも、謀反を起こした臣に捕えられて、どこかに連行されてしまった。

 ――あの時、弘毅と姉様の同行を断っていたら?

 そしたら、こんなことにはならなかったのではないか?

(どうして、私は生きているのだろう?)

 一国の公主が、醜態を晒してまで……。