贄の公主と降魔の王 ~黒衣を纏う花嫁は、年下王の最愛になる~

『謝罪? この程度のことで? 貴方が私に謝罪をさせたいのなら、「魂の書」の次に、即刻「六輪法」を習得してください。その後「調気法」を覚えるべきです。他にも、王として恥じることのないよう、帝王学をはじめ、覚えなければならないことは多岐に渡ります。余力があれば、呪い事……でしょう。亮では気味悪がられていますが、正しく学べば、有効なのです。魔物を討つだけではなく、体力を回復する術だってあるのですよ』
『な、何だと?』
『……あ』

 ――やってしまった。 

(まずい)

 いつも、虐げられている分、こんな時に、私は詰めたくなってしまうのかもしれない。

(ここは、これ以上、刺激しないよう、そっとお暇して)

 さっさと交信を切るべく、私は意識を切り離そうとしたが……。

『お前なあ』
『え?』

 一瞬、耳を疑うほど、天禄様は情けない声で私を呼んだ。

『絶対、他人事だと思っているだろう? 私は王だ。そんな暇あるか!』
『ええっと』

 ――つまり。
 時間があるなら、やる気はある……と。

(この方って……)

 ただ単に、学ぶことの意味を理解していないだけなのではないか?

『そうですよね。当然、ご多忙でしょう。だから、無理などしなくて結構です。しかし、王である以上、最小限、知っておかなければならないことがある。知識は裏切りません。貴方の一生の味方です。どんな時だって、貴方を助けてくれますから』
『へえ』
『……と、まあ、そういうことで』

 私は今度こそ、この場から逃げだそうとした。
 ――が、しかし。

『なあ……』

 再び、捕まってしまった。

『は、はい?』 
『お前、六輪法を極めているのだな?』
『えっ?』
『全十二巻。内容は専門性が高く、身体の気の通り道を整える方法が書かれている。大人が読むのも難しい書物だと、太傅は話していた。それを、お前は極めた……と?』
『極めている……とまでは言い難いですけど』

 亮に亡命してから、魔物を斃すための方法を必死に勉強して、六輪法も当然、読んではみたが、極めたというほどではない。

『何歳の時だ?』
『十二歳くらいの頃に、読みましたね』
『そう。十二歳。……そうか』

 呟いたきり、天禄様は黙り込んでしまった。
 完全に静かになってしまったので、わたしの方が不安になってしまう。
 これで、魔物討伐に出ないなんて、駄々をこねられたら、困るのは私なのだ。

『え、えっと……』

 何か適当に褒めて、去ってしまおうと、台詞を考えていたところで……。

『分かった』
『何が?』

 恐々、問い返すと……。

『やってやる!』

 怒鳴られてしまった。

『お前の言うように、学んでやろう! 名実ともに最強の王になってやる! その代わり、私が事を成したら、名前くらい教えろ!』
『え? あ、それは?』

 天禄様の甲高い声が、耳の奥で反響して頭が痛い。

『いいな!』

 ――ぷつっ。
 切れた。一方的に。

(何なの? あれは?)

 早口で捲し立てた挙句、私の返事すら待たずに、連絡を絶ってしまった。
 まさしく子供。

「やっぱり、よく分からない方だわ」


 ……けれども、本当に謎なのは、その後の天禄様の行動だった。

 ――天禄様は宣言通り、すべてを極めていった。

 最強かどうかはともかく、どの分野においても頭角を現し、魔物討伐においても、ただ斃すだけではなく、出現した時の戦闘形式まで構築するに至った。
 相変わらず、自信家で短気な部分はあるけれど、それを差し引いても、立派に成長を遂げたのだ。
 ここまでの努力に応えないわけにはいかず、私は仕方なく「(シュアン)」と名乗った。
 いつ終わってもいいようにと、あえて、淡泊な対応ばかりしているのに……。
 天禄様は怒りながらも、何かと理由をつけて連絡を取りたがってくる。
 その意図を、私はさっぱり読めないまま……。

 気がつくと、四年の歳月が流れていたのだった。