贄の公主と降魔の王 ~黒衣を纏う花嫁は、年下王の最愛になる~

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 魔物討討伐で意識を繋げている時は、天禄様が私の声を聞く必要はない。
 私だけが天禄様の持ち物を持っていれば、事足りるのだが、私の声を届けたいのなら、相応のものを天禄様に持っていてもらう必要がある。
 何か使い勝手の良い小道具はないかと考えて、私は組紐を編むことにした。
 編みながら、私の念をこめていけば、一層、強力に天禄様と意識を繋げることができる。
 二つ同じものを作って、一つは私。もう一つは天禄様に持ってもらえば完璧だ。
 美雨に頼んで、できるだけ耀極殿の近くに落としてもらうよう頼んだ。
 私は強力な呪い事を使うことはではないけど、その組紐を天禄様のもとに、届けるくらいならできる。
 一か八かの賭けではあったけれど、成果は私の予想以上だった。

(いや、術の成功を喜んでいる場合ではないわよね)

 天禄様は、噂通りの馬鹿……もとい、無知だった。
 私ごときに、身体を乗っ取られてしまうなんて、降魔の王として、あってはならないことだ。

 ――これは、まずい。

 さすがに、私も怒りがこみあげてきて、わざと冷たい態度を取ってしまった。
 もう少し、言い方もあっただろうけど……。

(……我慢ができなかった)

 圧倒的な潜在能力を持っているだけではなく、それを活かすための最高の学びの場も整っているというのに、自分の力を過信して、努力を蔑ろにするあの方が私は妬ましくて仕方なかった。

(馬鹿は、私ね)

 天禄様が王太后様に告げ口したら、私はどうなってしまうのか?

(どっちにしろ、死ぬのだから、早いか、遅いかの違いってことかしら?)

 言いたいことをぶちまけて、すっきりしたのなら、それで良かったのかもしれない。

「怒り任せでもいいから、基礎だけでも、学んでくれたらいいのだけど……」

 疲労感が抜けず、ごろりと寝床に横たわると、左腕に巻いていた組紐がきらりと光った。

「……え?」

 紐が光って点滅するのは、交信を呼びかけている時だけだ。話したいと願うと、相手に届くようには作っていたが……。

(あくまで、私専用で使うつもりだったのだけど?)

 この呪い事の仕組みに、昨日の今日で天禄様が気づくなんて、有り得ないのでは?

(じゃあ、この呼び出しは、王太后様?)

 ごくり、息を呑む。
 組紐に関しては、互いの姿が視えないよう、細かく設定している。
 例によって、天禄様から私を視ることはできないので、もし、不都合なことが発生したら、こちらから、交信を切ってしまえば何とかなる……かもしれない?

(どちらにしても、逃げたところで意味はないもの)

 三日後には、私から天禄様に交信するつもりだったのだ。捨てられていたら、作り直そうと思っていたくらいなのだから……。

「よしっ」

 起き上がって、居住まいを正した私は、右手で組紐に触れながら、天禄様のことを思い浮かべた。
 ――すると。

『おい! 聞こえているか? 女!』

 天禄様の大声がこだました。

『あれ? 王太后様は?』
『なぜ、私が母上に、こんな屈辱を話さなければならないのだ?』

 成程。
 山より高い自尊心から、密告は避けたらしい。

『では、天禄様ご自身で、この組紐の使い方に気付かれたというのですか?』
『当然だろ? この組紐にお前の念のようなものを感じたからな』
『はあ?』

 天才なのか、愚鈍なのか?
 普段、魔物討伐の時には、私の気配なんて微塵も感じた様子はないのに、組紐は別なのか?

『それで、一体、何のご用で? 猶予はまだ……』
『ああ、三日ではなく、一日で覚えてやったぞ!』
『え? あれを一日で覚えたというのですか?』

 ――(ルーン)の書。全六巻。
 子供向けとはいえ、たった一日で習得できるものではないはずだが?

『本当に?』
『私を誰だと思っている? 今、ここで諳んじてもいい』
『いや、丸暗記ではなく、理解をしていないと意味はないので』
『は? 馬鹿にするな。ちゃんと理解もしている』
『では、凄いですね』
『ほう』

(あ?)

 また、声色が低く変わった。
 多分、これは悪い方だ。

『ならば、お前は私に謝罪すべきだな。私の御前で跪き、大衆の面前で己の非を詫びろ』

 ――駄目だ。

(この方は、性格が終わっている)

 たった一日勉強して、ようやく五歳児を卒業した方が何を勝ち誇っているのか?

(私が何の為に、自分の命を捧げていると思っているのよ?)