◆◆
魔物討討伐で意識を繋げている時は、天禄様が私の声を聞く必要はない。
私だけが天禄様の持ち物を持っていれば、事足りるのだが、私の声を届けたいのなら、相応のものを天禄様に持っていてもらう必要がある。
何か使い勝手の良い小道具はないかと考えて、私は組紐を編むことにした。
編みながら、私の念をこめていけば、一層、強力に天禄様と意識を繋げることができる。
二つ同じものを作って、一つは私。もう一つは天禄様に持ってもらえば完璧だ。
美雨に頼んで、できるだけ耀極殿の近くに落としてもらうよう頼んだ。
私は強力な呪い事を使うことはではないけど、その組紐を天禄様のもとに、届けるくらいならできる。
一か八かの賭けではあったけれど、成果は私の予想以上だった。
(いや、術の成功を喜んでいる場合ではないわよね)
天禄様は、噂通りの馬鹿……もとい、無知だった。
私ごときに、身体を乗っ取られてしまうなんて、降魔の王として、あってはならないことだ。
――これは、まずい。
さすがに、私も怒りがこみあげてきて、わざと冷たい態度を取ってしまった。
もう少し、言い方もあっただろうけど……。
(……我慢ができなかった)
圧倒的な潜在能力を持っているだけではなく、それを活かすための最高の学びの場も整っているというのに、自分の力を過信して、努力を蔑ろにするあの方が私は妬ましくて仕方なかった。
(馬鹿は、私ね)
天禄様が王太后様に告げ口したら、私はどうなってしまうのか?
(どっちにしろ、死ぬのだから、早いか、遅いかの違いってことかしら?)
言いたいことをぶちまけて、すっきりしたのなら、それで良かったのかもしれない。
「怒り任せでもいいから、基礎だけでも、学んでくれたらいいのだけど……」
疲労感が抜けず、ごろりと寝床に横たわると、左腕に巻いていた組紐がきらりと光った。
「……え?」
紐が光って点滅するのは、交信を呼びかけている時だけだ。話したいと願うと、相手に届くようには作っていたが……。
(あくまで、私専用で使うつもりだったのだけど?)
この呪い事の仕組みに、昨日の今日で天禄様が気づくなんて、有り得ないのでは?
(じゃあ、この呼び出しは、王太后様?)
ごくり、息を呑む。
組紐に関しては、互いの姿が視えないよう、細かく設定している。
例によって、天禄様から私を視ることはできないので、もし、不都合なことが発生したら、こちらから、交信を切ってしまえば何とかなる……かもしれない?
(どちらにしても、逃げたところで意味はないもの)
三日後には、私から天禄様に交信するつもりだったのだ。捨てられていたら、作り直そうと思っていたくらいなのだから……。
「よしっ」
起き上がって、居住まいを正した私は、右手で組紐に触れながら、天禄様のことを思い浮かべた。
――すると。
『おい! 聞こえているか? 女!』
天禄様の大声がこだました。
『あれ? 王太后様は?』
『なぜ、私が母上に、こんな屈辱を話さなければならないのだ?』
成程。
山より高い自尊心から、密告は避けたらしい。
『では、天禄様ご自身で、この組紐の使い方に気付かれたというのですか?』
『当然だろ? この組紐にお前の念のようなものを感じたからな』
『はあ?』
天才なのか、愚鈍なのか?
普段、魔物討伐の時には、私の気配なんて微塵も感じた様子はないのに、組紐は別なのか?
『それで、一体、何のご用で? 猶予はまだ……』
『ああ、三日ではなく、一日で覚えてやったぞ!』
『え? あれを一日で覚えたというのですか?』
――魂の書。全六巻。
子供向けとはいえ、たった一日で習得できるものではないはずだが?
『本当に?』
『私を誰だと思っている? 今、ここで諳んじてもいい』
『いや、丸暗記ではなく、理解をしていないと意味はないので』
『は? 馬鹿にするな。ちゃんと理解もしている』
『では、凄いですね』
『ほう』
(あ?)
また、声色が低く変わった。
多分、これは悪い方だ。
『ならば、お前は私に謝罪すべきだな。私の御前で跪き、大衆の面前で己の非を詫びろ』
――駄目だ。
(この方は、性格が終わっている)
たった一日勉強して、ようやく五歳児を卒業した方が何を勝ち誇っているのか?
(私が何の為に、自分の命を捧げていると思っているのよ?)
魔物討討伐で意識を繋げている時は、天禄様が私の声を聞く必要はない。
私だけが天禄様の持ち物を持っていれば、事足りるのだが、私の声を届けたいのなら、相応のものを天禄様に持っていてもらう必要がある。
何か使い勝手の良い小道具はないかと考えて、私は組紐を編むことにした。
編みながら、私の念をこめていけば、一層、強力に天禄様と意識を繋げることができる。
二つ同じものを作って、一つは私。もう一つは天禄様に持ってもらえば完璧だ。
美雨に頼んで、できるだけ耀極殿の近くに落としてもらうよう頼んだ。
私は強力な呪い事を使うことはではないけど、その組紐を天禄様のもとに、届けるくらいならできる。
一か八かの賭けではあったけれど、成果は私の予想以上だった。
(いや、術の成功を喜んでいる場合ではないわよね)
天禄様は、噂通りの馬鹿……もとい、無知だった。
私ごときに、身体を乗っ取られてしまうなんて、降魔の王として、あってはならないことだ。
――これは、まずい。
さすがに、私も怒りがこみあげてきて、わざと冷たい態度を取ってしまった。
もう少し、言い方もあっただろうけど……。
(……我慢ができなかった)
圧倒的な潜在能力を持っているだけではなく、それを活かすための最高の学びの場も整っているというのに、自分の力を過信して、努力を蔑ろにするあの方が私は妬ましくて仕方なかった。
(馬鹿は、私ね)
天禄様が王太后様に告げ口したら、私はどうなってしまうのか?
(どっちにしろ、死ぬのだから、早いか、遅いかの違いってことかしら?)
言いたいことをぶちまけて、すっきりしたのなら、それで良かったのかもしれない。
「怒り任せでもいいから、基礎だけでも、学んでくれたらいいのだけど……」
疲労感が抜けず、ごろりと寝床に横たわると、左腕に巻いていた組紐がきらりと光った。
「……え?」
紐が光って点滅するのは、交信を呼びかけている時だけだ。話したいと願うと、相手に届くようには作っていたが……。
(あくまで、私専用で使うつもりだったのだけど?)
この呪い事の仕組みに、昨日の今日で天禄様が気づくなんて、有り得ないのでは?
(じゃあ、この呼び出しは、王太后様?)
ごくり、息を呑む。
組紐に関しては、互いの姿が視えないよう、細かく設定している。
例によって、天禄様から私を視ることはできないので、もし、不都合なことが発生したら、こちらから、交信を切ってしまえば何とかなる……かもしれない?
(どちらにしても、逃げたところで意味はないもの)
三日後には、私から天禄様に交信するつもりだったのだ。捨てられていたら、作り直そうと思っていたくらいなのだから……。
「よしっ」
起き上がって、居住まいを正した私は、右手で組紐に触れながら、天禄様のことを思い浮かべた。
――すると。
『おい! 聞こえているか? 女!』
天禄様の大声がこだました。
『あれ? 王太后様は?』
『なぜ、私が母上に、こんな屈辱を話さなければならないのだ?』
成程。
山より高い自尊心から、密告は避けたらしい。
『では、天禄様ご自身で、この組紐の使い方に気付かれたというのですか?』
『当然だろ? この組紐にお前の念のようなものを感じたからな』
『はあ?』
天才なのか、愚鈍なのか?
普段、魔物討伐の時には、私の気配なんて微塵も感じた様子はないのに、組紐は別なのか?
『それで、一体、何のご用で? 猶予はまだ……』
『ああ、三日ではなく、一日で覚えてやったぞ!』
『え? あれを一日で覚えたというのですか?』
――魂の書。全六巻。
子供向けとはいえ、たった一日で習得できるものではないはずだが?
『本当に?』
『私を誰だと思っている? 今、ここで諳んじてもいい』
『いや、丸暗記ではなく、理解をしていないと意味はないので』
『は? 馬鹿にするな。ちゃんと理解もしている』
『では、凄いですね』
『ほう』
(あ?)
また、声色が低く変わった。
多分、これは悪い方だ。
『ならば、お前は私に謝罪すべきだな。私の御前で跪き、大衆の面前で己の非を詫びろ』
――駄目だ。
(この方は、性格が終わっている)
たった一日勉強して、ようやく五歳児を卒業した方が何を勝ち誇っているのか?
(私が何の為に、自分の命を捧げていると思っているのよ?)



