――言った。
とうとう。
苦節、四年。今日こそ、婉曲な言い方をせず、真っ直ぐに……。
――会いたい……と。
(玄は気付いているのだろうか?)
ある時から「お前」と呼ぶのをやめて「貴方」と呼ぶようになったことを……。
侮りから、尊敬に変わり、いつしか好意を持って、私が話しかけていることを……。
(もし、ここで色よい返事が得られたのなら、全部投げ打って、私は……)
――などと。
期待しても無駄であることは、私だって分かっているのだ。
案の定、玄の対応は冷淡だった。
『理由は? 会わなければならない理由があるのですか?』
『……それは』
会いたいということに、理由なんているのか?
(いや、普通は理由がないといけないものなのか?)
理由と言われたら、たくさんありすぎて、直に会って話した方が早いのだが……。
――などと、長考するのも禁物だ。
過去七回、それで、玄から交信を切られている。
纏まらない、混乱状態のまま、私は答えた。
『あ、会ってどうということはないが、四年もつきあいがあるのに、一度も会ったことがないなんて、私は悲しいと思ったのだ。貴方さえ、そのつもりなら、私は万全の態勢で会いに行くつもりだ。誰にもバレないよう、上手くやるし、何処にだって行く用意も……』
『嫌ですよ』
『嫌っ!?』
『はい。嫌です。これから、お妃様を娶るというのに、私のような者と顔を合わせていてはいけません』
『妃? ああ……そうか。うん。私の方は、そんなものどうでもいいのだ。何やら、王太后が勝手に動いているが、私は一切興味がない。そもそも、私にはちゃんと……妃がいる』
『……妃?』
『ああ。名は琳娜。私より四歳年上だから、今は二十一歳だろう。すでに、後宮にはいないという話だが、それも怪しい情報だ。彼女にも、ちゃんと会って謝りたいと思っている。今更だが、心から謝罪をしたいのだ』
『謝罪……するのですか? 天禄様が?』
『当然だろう。私に非があるのだから』
『………』
『琳娜には本当に悪いことをしたと思っている。償っても許されないくらい。私は今も愚かだが、あの時は、今以上に幼く、馬鹿だった。彼女にだって、何か事情があったのかもしれないのに、頭ごなしに怒鳴りつけて、追い出した。視野の狭い……最低な子供だった』
『……そんなことは』
今までと明らかに違う。声がゆらゆらと、ぐらついていた。
自分が「玄」という女を演じていることを忘れて、素の感情で、狼狽えているように。
(……琳娜)
禁じ手だと思って、今まで使わなかった「妃」という言葉。
玄は私に妃がいると告げた時、聞き返さなかった。
一部の人間しか知らない妃のことを、彼女は知っていたということになる。
『実は、私なりに過去の王妃のことを調べている。なぜか、その部分ついての書が消えていたり、学者に尋ねても分からないの一点張りで、難航しているが、私はいつか必ずその理由を突きとめて……』
『駄目です!』
『……駄目?』
『そのようなことを調べる前に、天禄様はもっとやるべきことがあります』
『なぜだ? 王たる者、仁愛の心が重要だと、私を諭したのは貴方ではないか?』
相手への思いやりを持たない者が、人の上に立つべきではないと、天禄に叩きこんだのは、他でもない玄だ。
『天禄様は……魔物を斃さなければならないのです』
『なあ、玄。いい加減、話してくれ。貴方は一体、何を隠している? 私は貴方の口から全部話して欲しいのだ』
『私は何も』
『だったら、なぜ? 貴方はいつも魔物を斃すことに、こだわるのだ? 私が出張ってもいいが、我が国の魔物討伐軍は強い。そう簡単にやられるものでもない。人を信用して任せるのも、私の大切な仕事だと申していただろう?』
『……私は』
『貴方は、なぜ自分を罰しようとしている?』
逃げ出そうと思ったら、それを実現できるだけの能力を玄は持っていたはずだ。
王太后を排除することだって、呪い事を利用すれば、可能だったはずだ。
それなのに、彼女はしなかった。
(私が絶対的に悪いとしても、それだけじゃない)
――彼女は、自分を憎んでいる。
私が彼女を救うことができても、そのしこりがある限り、彼女は私を頑なに拒み続けるのではないか?
とうとう。
苦節、四年。今日こそ、婉曲な言い方をせず、真っ直ぐに……。
――会いたい……と。
(玄は気付いているのだろうか?)
ある時から「お前」と呼ぶのをやめて「貴方」と呼ぶようになったことを……。
侮りから、尊敬に変わり、いつしか好意を持って、私が話しかけていることを……。
(もし、ここで色よい返事が得られたのなら、全部投げ打って、私は……)
――などと。
期待しても無駄であることは、私だって分かっているのだ。
案の定、玄の対応は冷淡だった。
『理由は? 会わなければならない理由があるのですか?』
『……それは』
会いたいということに、理由なんているのか?
(いや、普通は理由がないといけないものなのか?)
理由と言われたら、たくさんありすぎて、直に会って話した方が早いのだが……。
――などと、長考するのも禁物だ。
過去七回、それで、玄から交信を切られている。
纏まらない、混乱状態のまま、私は答えた。
『あ、会ってどうということはないが、四年もつきあいがあるのに、一度も会ったことがないなんて、私は悲しいと思ったのだ。貴方さえ、そのつもりなら、私は万全の態勢で会いに行くつもりだ。誰にもバレないよう、上手くやるし、何処にだって行く用意も……』
『嫌ですよ』
『嫌っ!?』
『はい。嫌です。これから、お妃様を娶るというのに、私のような者と顔を合わせていてはいけません』
『妃? ああ……そうか。うん。私の方は、そんなものどうでもいいのだ。何やら、王太后が勝手に動いているが、私は一切興味がない。そもそも、私にはちゃんと……妃がいる』
『……妃?』
『ああ。名は琳娜。私より四歳年上だから、今は二十一歳だろう。すでに、後宮にはいないという話だが、それも怪しい情報だ。彼女にも、ちゃんと会って謝りたいと思っている。今更だが、心から謝罪をしたいのだ』
『謝罪……するのですか? 天禄様が?』
『当然だろう。私に非があるのだから』
『………』
『琳娜には本当に悪いことをしたと思っている。償っても許されないくらい。私は今も愚かだが、あの時は、今以上に幼く、馬鹿だった。彼女にだって、何か事情があったのかもしれないのに、頭ごなしに怒鳴りつけて、追い出した。視野の狭い……最低な子供だった』
『……そんなことは』
今までと明らかに違う。声がゆらゆらと、ぐらついていた。
自分が「玄」という女を演じていることを忘れて、素の感情で、狼狽えているように。
(……琳娜)
禁じ手だと思って、今まで使わなかった「妃」という言葉。
玄は私に妃がいると告げた時、聞き返さなかった。
一部の人間しか知らない妃のことを、彼女は知っていたということになる。
『実は、私なりに過去の王妃のことを調べている。なぜか、その部分ついての書が消えていたり、学者に尋ねても分からないの一点張りで、難航しているが、私はいつか必ずその理由を突きとめて……』
『駄目です!』
『……駄目?』
『そのようなことを調べる前に、天禄様はもっとやるべきことがあります』
『なぜだ? 王たる者、仁愛の心が重要だと、私を諭したのは貴方ではないか?』
相手への思いやりを持たない者が、人の上に立つべきではないと、天禄に叩きこんだのは、他でもない玄だ。
『天禄様は……魔物を斃さなければならないのです』
『なあ、玄。いい加減、話してくれ。貴方は一体、何を隠している? 私は貴方の口から全部話して欲しいのだ』
『私は何も』
『だったら、なぜ? 貴方はいつも魔物を斃すことに、こだわるのだ? 私が出張ってもいいが、我が国の魔物討伐軍は強い。そう簡単にやられるものでもない。人を信用して任せるのも、私の大切な仕事だと申していただろう?』
『……私は』
『貴方は、なぜ自分を罰しようとしている?』
逃げ出そうと思ったら、それを実現できるだけの能力を玄は持っていたはずだ。
王太后を排除することだって、呪い事を利用すれば、可能だったはずだ。
それなのに、彼女はしなかった。
(私が絶対的に悪いとしても、それだけじゃない)
――彼女は、自分を憎んでいる。
私が彼女を救うことができても、そのしこりがある限り、彼女は私を頑なに拒み続けるのではないか?



