黒宮家で初めての夜を過ごした次の日。
昨日のことがあり、気まずさのあった白花。
「おはようございます。昨日は眠れましたか?」
「は、はい…お陰様で」
「それは良かったです。それでは、甘楽様もお待ちでしょうし参りましょう」
白花の不安とは対照的に、淡々と対応する朔。
その態度に安堵したが、心の内のわだかまりが解消するわけではなかった。
(朔さんに、昨日の事を謝らないと…でも、話をぶり返してお気を悪くするかもしれないし…)
無言で彼の後ろを歩いていると、ピタリと立ち止まった。
しかし、どう切り出そうかと考えていた白花は気付かず彼の背中にとん、と当たってしまった。
「申し訳ありません。俺が急に止まってしまったから」
「い、いえ…私の方こそ、申し訳ありません。いかがなさったのですか?」
白花が頭を下げ尋ねれば、顎に手を添え神妙な面持ちをする朔。
「隣を歩いてもらえませんか?」
「…えっ?」
言葉が詰まった。
「隣を歩く」——その言葉は、白花がこれまで教え込まれてきた価値観とは正反対だった。
男の三歩後ろを歩け、男を立てろと耳にタコができるほど言われてきた。
隣を歩くという事が、失礼になると思い咄嗟に首を横に振った。

