「下らん事を申すな。風呂に入って、寝る」
女中達の揶揄いに耐えられなくなると、そのまま茶の間から出て行ってしまった。
「あら…ちょっと、どうするのさ」
「つい気になってね…白花様に悪いことしてしまいましたね…」
言いすぎてしまったと女中達が口元を押さえた。
白花だけは、出て行った後の襖をじっと見ていた。
「私…」
それだけ言うと、彼の後を追いかけた。
「朔さんっ…」
彼の背中にそう声をかけると、振り返りざまばつの悪そうな顔をした。
「…申し訳ありません。あのように申してしまい」
「いえ…私が不要な事を申したからです。朔さん、謝らないでください」
彼に首を横に振って見せたが、朔は重々しく口を開いた。
「貴女が謝ることではありません…俺は、生涯誰かを愛すつもりも、愛す資格もないのです」
「…えっ? それって…」
「ともかく…明日、甘楽様と共に治安会へ参ります。『歩く書物庫』の彼に会うため。白花様も明日に備えて、早めにお休みください」
そう言われ、話を切り上げる彼にかける言葉はなかった。
「…えっ?」
その言葉の意味を尋ねようとしたが、朔はもう話を切り上げてしまった。
残された白花は、結局「申し訳ございません」と小さく口にすることしかできなかった。

