能面令嬢と闇の当主 〜愛のない契約結婚のはずでした〜


「あ、あの…えっと…」

これほど温かく迎え入れられるのは初めてで言葉に詰まった。

「奥様、苦手な食べ物は!?」
「いえ…特には」
「あらあらあらっ! じゃあ腕によりをかけないとっ! 坊ちゃん、婆婆が奥様にお部屋をご案内しますからね!?」

乗り気な女中が白花を屋敷の中へ迎え入れると、朔はまたため息を吐いた。

「いい。俺が案内する」
「まぁまぁまぁ…! 一時も奥様と離れたくないのですねっ」
「…何故そうなる」

ぽっと頬を赤らめる女中に呆れたように言えば、「こちらへ」と白花に伝えて前を歩いた。
そんな朔と白花の後ろ姿を見て、女中達の口角はただひたすら上がっていた。

「…申し訳ありません。あの通り、面倒で」
「いえ、面倒だなんて。とても感じの良い方達でした」

廊下を曲がり、女中達に姿が見えなくなると開口一番謝った。
しかし、白花は首を横に振った。

「白花様にそうおっしゃって頂けて幸いです。お部屋はこちらをお使いください」

その呼び方に、胸の奥が少しだけ寂しくなった。

「…はい。あの、私一人でここを使ってよろしいのですか?」

女中達の温かな歓迎が、まだ胸に残っていた。
少しぎこちなく返事をして部屋へ入る。
日当たりが良く、障子越しに日が差し込み電気をつけなくても明るい。
部屋も一人で使うには十分すぎる広さ。
思わず朔を振り返った。