能面令嬢と闇の当主 〜愛のない契約結婚のはずでした〜


「はい。それでは、私は旦那様とお呼びしてよろしいですか?」
「いえ、流石に加護者様に様と呼ばれるのは…名前で呼んでもらえませんか?」

朔がそう尋ねれば、こくりと小さく頷いた。

「わかりました。黒宮さん」
「…貴女も、今日から黒宮です。朔と呼んでください」

言葉に詰まったものの、茶化す事はなく淡々と伝えた。
白花は、男性との付き合いに慣れていないことを見透かされた気がして、内心穏やかではなかった。

「失礼しました。朔さん」
「では、俺は…白花様とお呼びしましょうか」
「妻を様と呼ぶのは…」

先程までのやりとりのまるで逆を繰り広げると、一瞬動きが止まった朔。
こほん、と咳払いをして少し間が空いた。

「…白花さん」
「はい。朔さん」

朔の頬が、ほんの少しだけ赤くなったように見えたが、すぐに口を開いた。

「それと、貴女の生活に干渉するつもりはありません。しかし、夫婦である事を求められる場面ではお互い、適度に対応しましょう」
「はい」

朔と口裏を合わせるような約束を終えれば、引き戸に手をかけた。

「「「お帰りなさい、坊ちゃん」」」

朔の帰りと同時に、三人の女中が声を合わせて三つ指をついていた。