能面令嬢と闇の当主 〜愛のない契約結婚のはずでした〜


「ちょうど明日、護さんを訪ねますから白花さんと朔さん。ご一緒に参りましょう」

穏やかな笑みを浮かべる仁美。
話を終えると、二手の馬車に別れて宮城から敷地の外へ繋がる門へ向かった。
一つの馬車には大、仁美、富美。
そしてもう一つの馬車には朔と白花。
お互い別の窓からぼんやりと外を眺めていた。

(本当に広い敷地…まさか、帝にお会いできる日が来るなんて。おかしな事もあるわね)

目の前に座る男性。
たった数刻前、この人は白花の夫となった。
今まで何度も縁談は破談になった。
だからもう、誰とも結婚する日は来ないのだと思っていた。
ふと窓の外から視線を正面に戻すと、ぱちっと目が合った。

「桜庭様」
「はい」

呼ばれると、無表情のまま返した。

「先にお伝えしておきたい事がある」

真面目な顔をして口を開く朔をじっと見つめた。

「俺は、貴女を愛すつもりはない」
「えっ…」

彼の言葉に声が漏れるが、構う事なく言葉を続けた。

「これは、帝の命によるもの……いわば、貴女を守る事を目的とした契約結婚です。貴女の戸籍を変える為、このまま役場へ向かいます。ですが、お守りする責務は必ず果たします」
「……はい」

頭では分かっていた。

(誰かに愛される未来なんて、あるわけがない…だって、私だもの)

気まずくなるとまた、視線を窓の外に移した。
馬車の車輪だけが、静かに石畳を鳴らしていた。