能面令嬢と闇の当主 〜愛のない契約結婚のはずでした〜


「なんだい、あの子。むすっとして、可愛げのない子だね」
「年頃であんなのじゃダメよね。外ではちゃんとニコニコして、男を立ててやらなきゃ」

くすりともしない白花にぶつくさと不満を言うと、初老の女性が咳払いをして場を仕切り直した。

「ちょっと、そういう事言うもんじゃないよ。あの子は桜庭家のお嬢さんで、色々大変だったんだから」
「桜庭…あぁ、あの家の子かい」

『桜庭』の名前が出ると、女性の表情が険しくなった。
当主が祖父から博に代わってから、評判は下がっている。
特に、梅と紅葉の高飛車な態度が近くに住む女性達の反感を買い、近所の人達からは最悪な印象を持たれている。

「ちょっと、あの女達とは違うわよ…可哀想に。まだ、笑えないんだ…」
「まだ?」
「幼い時にお母さんを亡くして、その後に先代の当主…お祖父さんも亡くしてるのよ」

そう言えば、白花に向けた酷い言葉も自然と消えた。
誰もそれ以上は何も言わなかった。
重たい空気のまま、彼女達はそれぞれの家路へと戻っていった。