「どこへ向かえばよろしいのでしょう…」
敷地から出たものの、外へ出たのは十一年ぶり。
外へ出る時は、祖父や使用人が必ず傍にいた。
一人で歩くのは初めてだった。
思わず振り返り、桜庭家の門を見つめた。
知らない世界へ踏み出した事に、不安が胸を締めつける。
祖父を亡くしてから屋敷の外へ出られなくなった。
『貴女、外へは出ないでちょうだい』
『そうよ。桜庭家から、お姉様みたいなのが出て行くのを見られたら、品位を疑われるわ』
梅と紅葉から言葉のがんじがらめに遭い、父は見て見ぬふり。
その態度が白花への悪態を助長させた。
「おや…もしかして、白花ちゃんかい?」
名を呼ばれると、そちらを向いた。
そこには、畑仕事を終えた初老の女性が穏やかに笑みを浮かべている。
しばらく考え込んだ後、思い出すと小さく会釈をした。
「こんにちは…」
「久しぶりじゃないか。元気にしてたかい? しばらく見なかったね…どこかへ行ってて、戻ってきた、とか? まさか、また会えるとは思っていなかったよ。でも、帰ってきたのならまたいつでも会えるねぇ」
白花が返事をする間もなく、女性は嬉しそうに言葉を重ねた。
彼女は、近所に住む女性で祖父と仲が良く、幼い白花の事も可愛がっていた。
懐かしい再会に、幽閉されていたとは言えず相槌を打ちながら話を聞いた。

