能面令嬢と闇の当主 〜愛のない契約結婚のはずでした〜


「白花様っ…おにぎり、足りなくなったら帰ってきてくださいっ…小春、こーれくらい大きいの作るからっ」

玄関を開け、戸を閉めようと振り返れば小さな体を目一杯使って表現する小春。
彼女は、白花がもう二度と桜庭家の敷居を跨がない事を理解していないのだ。

「…さようなら」

最後にそう告げると、白花は深呼吸をした。
一歩ずつ敷地の外へ繋がる門へ向かった。
そして、後一歩のところでごくりと生唾を飲み込んだ。
この敷地の外の事は、何も知らない。
右も左も分からない状態で出る初めの一歩を踏み出した。

その時――

パリン。

見えない何かに亀裂が入る。
白花は、桜庭家を包む見えない境界を越えた。
次の瞬間ーー。

「…何だ、この気配は」

得体の知れないモノを確かめようと空を見つめる男。

「十二年ぶりに姿を現したか…『命の加護者』」

直接、脳に刺激が走る玉座に座る男

「…特殊な力を察知した。出陣を整えるぞ」

数を揃える、隊服に身を包んだ治安部隊。

そしてーー。

「やはり、桜庭家に眠っていたか。今度こそ、我が手中に…」

白花の知らない場所で、それぞれの思惑が一斉に動き始めた。