能面令嬢と闇の当主 〜愛のない契約結婚のはずでした〜


☆☆☆

翌日。
桜庭家で迎える朝は、いつもと全く変わらなかった。
いつもと同じように、当主、梅、紅葉が起きるよりずっと早くに目覚め、身支度をする。
そして、奉公しようと台所へ向かったが、女中が白花の進路を阻んだ。

「白花様。今日は屋敷の事は良いと、当主様から承っております」
「…はい」

短く返事をすると、特に抵抗する事もなく自室へ戻った。

(早く出て行け…そういう事でしょう)

言葉から読み取れる微かな情報に納得すると、風呂敷一枚にまとめた荷物を持った。
まだ余裕があるほど、中は軽かった。
玄関へ向かうが、廊下には誰の姿もなかった。
主人達はまだ眠っている。
使用人達は朝の支度で忙しいのだろう。
いつもは誰かの足音が聞こえる廊下が、今日はやけに静かだった。

「白花様っ…!」

下駄を履いている最中、小春の声で振り返った。

「小春様」
「あの、あのね…! 小春ね、その…これ!」

もじもじとしている小春が白花に差し出したのは、竹の皮に包まれたおむすび。

「白花様、出るって言ってたから…お腹、空いちゃうかなって…!」

白花は両手で包み込むように受け取った。

「…ありがとうございます。大切に、頂きます」

おむすびを受け取れば、パァッと表情が明るくなる小春。