寒い冬を越えた初春の水仕事は、随分と楽。
けれど、桜庭 白花は水仕事が嫌いだった。
水面に、自分の顔が映るから。
(本当に…気味の悪い顔…)
自身の顔を見る度に、惨めになる。
青白い肌に、生気のない目。
肉付きが悪く、線のように細い貧弱な体。
何度も繕った着物。
全てが、白花の心を暗くする。
「ちょっとお姉様っ! どうして廊下の掃除が済んでいないの!? 私の足袋が汚れたじゃないっ!」
耳に突き刺さる甲高い声で怒鳴るのは妹の紅葉。
「…申し訳ございません」
伏目がちに虫の鳴くような小さな声で謝ると、白花の態度に「チッ!」と露骨に舌打ちをした。
「ほんと気味の悪い…早く掃除して! あと、こんなの履けないからっ!」
靴下を脱げば、白花目掛けて足袋を投げた。
「ふんっ!」と言い捨てると、足袋が当たったかどうかも気に留めず、紅葉は台所を去っていった。
パン、と乾いた音が響く。
頬がじわりと熱を帯びた。
それでも、彼女は眉ひとつ動かさなかった。
「…申し訳ございません」
床に落ちた足袋を拾い上げると、それを洗うため静かに台所から裏庭へ向かった。

