【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

今日は、初めてのお妃教育の日。

今朝、お仕事へ向かう暁臣様を玄関で見送った時のこと。
彼は私の震える指先に、そっと自身の大きな手を重ね、耳元で低く囁いてくださった。

『——案ずるな、すみれ。大丈夫だ』

暁臣様の低く落ち着く声の残響が、今も耳の奥に心地よく残っている。
大丈夫、きっとがんばれる。
落ち着いて、少しずつ。
何か一つ、小さなことだけでもいいから、今日と言う日で覚えられるように。
……そう自分に言い聞かせるたび、胸の奥の鼓動だけが正直に速くなる。

初日と言うこともあり、今日は動きやすさを考えて、人生で初めてお洋服に袖を通した。
暁臣様が私のために選んでくださった、淡いすみれ色のワンピース。
『わんぴーす』と言うその響きさえ、私には宝石の名前のようにキラキラして聞こえる。
布地に触れた指先が驚くほど滑らかで、思わず何度も撫でてしまった。

鏡に映る自分は、まるで別人のよう。
驚くほど柔らかく、風を孕むように軽い布地。
薄い色が肌を明るく見せ、首元の線さえ、少しだけ上品に見える気がする。
けれど、そのお洋服の軽やかさに反して、私の心には鉛のような緊張がずっしりと重くのしかかっていた。
背筋を伸ばそうとするほど肩が固くなり、呼吸が浅くなる。

コン、コン、コン。

静まり返った部屋に、控えめなノックの音が響く。
心臓が音を立てた。——まるで、私の方が叩かれたみたいに。