【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

「すみれ。よく聞いてくれ」

暁臣様は、私の視線を逃がさないように、静かに言った。

「俺は、すみれが今のままであっても構わないと、本心から思っている」

大きな手が、私の震える手をそっと包み込む。
手袋越しではない温度。
掌の熱が、冷え切った指先を溶かしていく。
私は反射的に指を引きかけて、——引けない。引きたくない。
そんな自分に気づいて、また胸が痛くなる。

「ただ、やはり世の中には煩い連中がいるのも事実だ」

手を握る力が、ほんの少しだけ強くなる。
守るための力だと、わかる。
わかるのに、それが嬉しくて、怖い。

「そこで……正式に家庭教師を呼び、妃教育を受けてもらおうと思っている」
「……きさき、きょういく……」
「ああ。茶道、華道、香道、書道の他に、中等教育に準ずる知識と教養。そして宮中での立ち居振る舞いだ」

教育……。
すべてが無駄だと、なんの価値さえないと撥ね除けられてきた私に、知識と教養を……?
世界の輪郭が、今までより少しだけ広がる気がして、眩暈がした。

「あ、あの……先日、暁臣様のお母様とお姉様にお会いした時、私は何か粗相をしてしまったのでしょうか?」
「いや。あんなものは瑣末なことだ。気にする必要はない」

けれど、あの時は何を聞かれても上手く言葉が出ず——結局、ほとんどすべてを暁臣様に代弁させてしまったのだ。
そのせいで暁臣様が親族から責められたり、評価を落としたりするようなことがあったとしたら。
そう思うと、申し訳なさで仕方がなくなる。
いっそ消えてしまいたい、とすら思ってしまう。

なぜ私は、こんなにも無力なのだろう。
でも——もし、その『お妃教育』とやらを受けることで、少しでも知識を身につけることができたなら。
いつか、今よりもほんの少しだけ、胸を張って暁臣様のお側にいられるようになるだろうか。
この方が差し出す手を、怖がるだけではなく、きちんと握り返せるだろうか。