二歳下の百合が通学し始めた日の、あの胸を抉られるような疎外感。
制服の袖が揺れたこと。
新しい鞄の革の匂い。
家族が『百合は立派ね』と笑った声。
私は今も、それを鮮明に覚えている。
「読み書きの方はどうだ?」
「あ……の。先日お会いした信子さんに、平仮名とカタカナを少しだけ教わったくらいで……。漢字などは、ほとんど……」
消え入るような声で、やっとの思いで絞り出した。
こんな話、きっと呆れられてしまうに違いない。
いつまでも隠し通せるとは思っていなかった。
けれど、いざ自分の口で認めるのは、これ以上ないほど惨めで仕方ない。
『無華』であるだけでなく、最低限の学も教養さえもない。
空っぽな自分を、できることなら暁臣様には知られたくなかった。
「そうか」
短く返されただけで、心臓が縮む。
『相応しくない』と、冷たく突き放される覚悟は——できていた。
「……学校にも満足に通わせてもらえない環境で、独学でそれだけ身につけたのだな。よく頑張った」
耳に届いたのは、驚くほど優しく、慈しみに満ちた声だった。
息を止めたまま、恐る恐る顔を上げる。
そこには、私を蔑む色など微塵もない、優しい暁臣様の瞳があった。
責めるのではなく、ただ『見て』くださっている瞳。
それだけで、喉の奥が熱くなる。
——どうして、この方はこんなにもお優しいのだろう。
向けられた善意を素直に受け取れず、まず先に『傷つく前に心を閉ざそう』としてしまう自分が情けない。
卑屈で、自分のことしか考えていない臆病な心が、じくじくと痛んだ。
制服の袖が揺れたこと。
新しい鞄の革の匂い。
家族が『百合は立派ね』と笑った声。
私は今も、それを鮮明に覚えている。
「読み書きの方はどうだ?」
「あ……の。先日お会いした信子さんに、平仮名とカタカナを少しだけ教わったくらいで……。漢字などは、ほとんど……」
消え入るような声で、やっとの思いで絞り出した。
こんな話、きっと呆れられてしまうに違いない。
いつまでも隠し通せるとは思っていなかった。
けれど、いざ自分の口で認めるのは、これ以上ないほど惨めで仕方ない。
『無華』であるだけでなく、最低限の学も教養さえもない。
空っぽな自分を、できることなら暁臣様には知られたくなかった。
「そうか」
短く返されただけで、心臓が縮む。
『相応しくない』と、冷たく突き放される覚悟は——できていた。
「……学校にも満足に通わせてもらえない環境で、独学でそれだけ身につけたのだな。よく頑張った」
耳に届いたのは、驚くほど優しく、慈しみに満ちた声だった。
息を止めたまま、恐る恐る顔を上げる。
そこには、私を蔑む色など微塵もない、優しい暁臣様の瞳があった。
責めるのではなく、ただ『見て』くださっている瞳。
それだけで、喉の奥が熱くなる。
——どうして、この方はこんなにもお優しいのだろう。
向けられた善意を素直に受け取れず、まず先に『傷つく前に心を閉ざそう』としてしまう自分が情けない。
卑屈で、自分のことしか考えていない臆病な心が、じくじくと痛んだ。



