【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

声が震える。
それでも、言わなければ。

「でも……授業のあった日は……少しだけ、こうして……抱きしめていただく時間を……いただけませんか……?」

言ってしまった。
触れ合うことは増えたけれど、こうして全身で抱きしめられるのは、まだ数えるほどしかないのに。
お妃教育のたび、週に四回も抱擁をおねだりするなんて。
……はしたない、欲張りな女だと思われてしまったらどうしよう。

暁臣様は、私の顔をじっと見つめたまま、ふっと口元を緩めた。
怒らない。
呆れない。
その事実だけで、息ができる。

「……授業のあった日、だけでいいのか?」
「……っえ?」
「俺の方は、毎日でも、一晩中こうしていても構わないのだが」
「い、いいの……ですか……?」

どうしよう……嬉しい。
暁臣様の時間を、私が独占してもいいなんて。
しかも義務ではなく、彼自身もそれを望んでくれている。
『我が儘』を受け入れてもらえることが、こんなにも心を満たしてくれるなんて、知らなかった。
胸が、温かいものでいっぱいになる。

「潤んだ瞳も美しいが、やはりすみれには笑顔が一番似合う」
「っ、そんな……」
「可愛い、と言っているんだ」

可愛い?私が……?
絶望の淵にいたはずなのに、今はもう、頭の中が彼の甘い言葉で掻き乱されて、言葉が何も出てこない。
何も言えずに赤くなっていると、暁臣様の両腕にひょいと抱え上げられ、私の身体はふわりと宙に浮いた。

「!あ、あの……わ、私、重くないですか……?」
「そうだな」

一瞬、考えるような間。
その間すら、心臓に悪い。

「俺の未来の妃には、もう少し重くなってくれると、安心できるんだが」

未来の妃……。
至近距離で、逃げ場のないほど強い視線でそう告げられたら。
それはもう、私のことだとはっきり自覚するしかない。
暁臣様は私の心配などどこ吹く風で、私を腕の中に納めたまま、悠々と歩き出した。
揺れに合わせて、胸がふわふわと浮く。怖いのに、嬉しい。

「改めて、昼食を摂りたいのだが。付き合ってくれるか?」
「はい……。私も、暁臣様と一緒がいいです」

そのままお部屋に戻ると、運ばれていた昼食のテーブルに、そっと降ろされる。
さっき私が見た時は一人分だったトレイの隣には、いつの間にか、もう一人分。
すっかり冷めてしまっているはずなのに。
一日ぶりに隣で食べる食事は、どんな豪華な料理よりも、優しくて、愛に満ちた味がした。
——『一緒に食べる』って、こんなにも幸せなんだ。