ここだけではない。
ベランダの向こうには、四季折々の花々が溢れる広大な庭園が一望できる。
『無華』と言う、加護を持たず蔑まれてきた私が、こんなふうに花の美しさに心を預け、愛でることで安らぎを得る日がくるなんて。
——ありえない未来を、生きている。
なのに、安心できない。
時折、壁一枚を隔てた隣の部屋から、暁臣様の微かな気配が伝わってくる。
足音なのか、椅子を引く音なのか、それとも気配だけなのか。
その度に、私の心は千々に乱された。
近いのに、遠い。
触れられる距離にいるのに、触れに行けない。
満足な教養もなく、まともに授業を受けることさえできない。
どれだけ背伸びをして、血の滲むような努力を重ねた所で、私なんかが、あの気高く美しい暁臣様の隣に、婚約者として並んで立てるわけがないのだ。
そう思ってしまう自分が、また私を追い詰める。
それよりも何よりも、彼に嫌われるのが、ただただ恐ろしい。
どうしたら、嫌われずにいられるのだろう。
どうしたら……この瞳も、この空っぽな心も、丸ごと好きになってもらえるのだろうか。
答えなどどこにもないのに。
今の幸せよりも、もっと、もっと大きな愛を……なんて、身の程知らずな願いばかりが溢れてしまう。
本当は、今すぐ会いに行きたい。
昨夜、暁臣様は『なぜ頼らない』と仰っていた。
『会いたい』と願うこと。
ただ、その一言を口にすることさえ、彼にとっては『頼る』ことになるのだろうか。
でも、もし暁臣様が求めている『頼る』と言う意味と、私の我が儘が違っていたら。
『頼っていい』と言われた瞬間に、私はもっと嫌われるのではないか。
——そんな捻れた恐怖が、喉を塞ぐ。
結局この日、昼も夜も、私が彼の食事に呼ばれることは、最後まで一度もなかった。
たった壁一枚。扉一枚の向こう側に、彼はいるのに。
呼びかければ届く距離のはずなのに。
それはまるで、暁臣様と私の住む世界が、永遠に交わることのない別物だと言うことを、改めて思い知らされた気がした。
——同じ屋敷にいるのに、私はまた、一人だ。
ベランダの向こうには、四季折々の花々が溢れる広大な庭園が一望できる。
『無華』と言う、加護を持たず蔑まれてきた私が、こんなふうに花の美しさに心を預け、愛でることで安らぎを得る日がくるなんて。
——ありえない未来を、生きている。
なのに、安心できない。
時折、壁一枚を隔てた隣の部屋から、暁臣様の微かな気配が伝わってくる。
足音なのか、椅子を引く音なのか、それとも気配だけなのか。
その度に、私の心は千々に乱された。
近いのに、遠い。
触れられる距離にいるのに、触れに行けない。
満足な教養もなく、まともに授業を受けることさえできない。
どれだけ背伸びをして、血の滲むような努力を重ねた所で、私なんかが、あの気高く美しい暁臣様の隣に、婚約者として並んで立てるわけがないのだ。
そう思ってしまう自分が、また私を追い詰める。
それよりも何よりも、彼に嫌われるのが、ただただ恐ろしい。
どうしたら、嫌われずにいられるのだろう。
どうしたら……この瞳も、この空っぽな心も、丸ごと好きになってもらえるのだろうか。
答えなどどこにもないのに。
今の幸せよりも、もっと、もっと大きな愛を……なんて、身の程知らずな願いばかりが溢れてしまう。
本当は、今すぐ会いに行きたい。
昨夜、暁臣様は『なぜ頼らない』と仰っていた。
『会いたい』と願うこと。
ただ、その一言を口にすることさえ、彼にとっては『頼る』ことになるのだろうか。
でも、もし暁臣様が求めている『頼る』と言う意味と、私の我が儘が違っていたら。
『頼っていい』と言われた瞬間に、私はもっと嫌われるのではないか。
——そんな捻れた恐怖が、喉を塞ぐ。
結局この日、昼も夜も、私が彼の食事に呼ばれることは、最後まで一度もなかった。
たった壁一枚。扉一枚の向こう側に、彼はいるのに。
呼びかければ届く距離のはずなのに。
それはまるで、暁臣様と私の住む世界が、永遠に交わることのない別物だと言うことを、改めて思い知らされた気がした。
——同じ屋敷にいるのに、私はまた、一人だ。



