【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

「あれ……私……?」

重い瞼を押し上げると、視界に飛び込んできたのは見慣れた薄紫色の天蓋だった。
柔らかな絹の布地が、天井から優しく揺れている。
——私の部屋。私のベッド。
なのに、身体の芯だけが冷たくて、現実感が薄い。

「——目が覚めたか」

低く、けれどどこか硬い声に弾かれたように視線を送る。
ベッドの傍らに置かれた椅子に、腕と脚を組み、険しい表情で座る暁臣様の姿があった。
ランプの灯が頬骨の影を強く作り、いつもより鋭く見える。

暁臣様が、もうご帰宅されている……。
窓の外は、すでに濃い夜の闇に塗り潰されていた。
——夜。
お迎えにも行けていない。

どうしよう。
お出迎えもできず、こんな所で眠りこけてしまうなんて。
お仕事で疲れ果てていらっしゃるはずなのに、お食事の用意も、お召し替えの手伝いも、何一つ……。
何もできない。
また、何も。

呆然とする頭の隅で、昼間の記憶が断片的に蘇る。

篠塚様との二度目の授業。
柔らかな微笑みの奥にある、逃げ場のない完璧な所作。
優しい声で、正しい形だけを示され続ける怖さ。
心臓が早鐘を打ち、息が浅くなり、指先が冷えた。
そして——冷たい溜息を吐き出された、と感じた次の瞬間。
視界が、真っ暗に沈んだのだ。

鉛のように重い身体を、必死に起こそうともがく。
起きなければ。謝らなければ。役に立たなければ。
でも、身体が言うことをきかない。

「無理に起きようとするな」

暁臣様の声が、少し近い。
怒っているのか、焦っているのか、私には分からない。

「医師によれば、過度の緊張と疲労による知恵熱だそうだ」
「いえ……あ……あの、申し訳、ございません……っ」
「——謝るな」