【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

けれど、その言葉の裏にある『断絶』が、はっきりとした形を持って私に見えてしまう。
……ああ。私は、この方たちとは根本から違う。
同じ部屋で息をしていても、立っている地面が違う。
私は、異物なのだ。

「大丈夫ですよ。努力なされば、きっと皆様に追いつけますわ」

篠塚様は、疑いようのない善意でそう言った。
だからこそ、余計に逃げ場がない。
善意は、私を『正しい場所』へ押し上げようとする。
——でも、その『正しい場所』が、どれほど遠いかを知っているのは私だけだ。

追いつく……。
その言葉が、気の遠くなるほど遠くに感じられる。
私が今立っている場所から、彼女たちがいる場所は、見上げるほどに高く、険しい。
手を伸ばしても届かない。
伸ばした腕が震えるだけだ。

授業が終わる頃には、慣れない所作で疲れた身体よりも、心の方が鉛を飲み込んだように重くなっていた。
胸の奥に沈んだものが、息を吸うたびにずしりと増える。

「今日はここまでにしましょう。よく頑張られましたね」
「ありがとうございました……っ」
「こちらこそ。また次回、お会いしましょうね」

立ち上がる篠塚様に、慌てて、深く深く頭を下げた。
頭を下げている間だけは、目を合わせなくて済む。
そんな自分が、また情けない。

柔らかな声。
完璧な礼。春風のような香りの余韻を残して、扉が閉まった。
しばらくの間、静まり返った部屋で一人立ち尽くしていた。
足の裏が冷たくて、現実だけが戻ってくる。

昨日は、ほんの少しだけ希望と言う名の光が見えた気がしたのに。
今日は、その光が照らし出した絶壁の高さに、ただただ絶望を突きつけられた気がした。
……登るべき山を見せられて、膝が笑っている。

——大丈夫。

自分自身を抱きしめるように、言い聞かせる。
声に出さなければ、崩れてしまいそうだった。

暁臣様のために。
私を見つけて、その腕に抱き寄せてくれたあの熱を、手放さないために。
そして——あの熱を知ってしまった私が、二度と蔵に戻らないために。
そうでなければ、今にも崩れ落ちてしまいそうな自分を、支えることなどできなかった。