【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

——え。
不意に投げかけられた言葉に、心臓が跳ねた。
鼓動が一度大きく脈打って、そのまま喉までせり上がってくる。
視線を逸らすな、と昨日言われたばかりなのに、目の前が揺れる。

「初めて拝見いたしましたわ。とても……ええ、とても珍しいですわね」

そこには、悪意など微塵も感じられなかった。
あるのは、ただ純粋な驚きと、未知のものに対する剥き出しの興味。
——だから、余計に痛い。

その透明な言葉が、私の胸の奥を、毒のようにきゅっと締めつける。
皮膚の上ではなく、もっと内側から刺される感じ。
昔、蔵の中で『気味が悪い』と囁かれた声が、耳の奥で一瞬だけ蘇る。

わかっている。
この広い世界で、『無華』は私一人ではない。
けれども、私は自分以外の『無華』に出会ったことは一度もない。
それほどまでに、この加護を持たぬ証である『左右の色が違う瞳』は、忌むべき、珍しいものなのだと、改めて突きつけられた気がした。

「あ……はい……。そうで、すね……」

声が、自分でも驚くほど小さく震えた。
舌が上手く動かない。
笑顔を作ろうとして、頬が引きつるのがわかる。

藤波様なら、決して触れなかったであろう話題。
けれど篠塚様にとっては、道端に咲く珍しい花を見つけた時と同じ程度の、他愛のない感想に過ぎないのだろう。
その『他愛なさ』が、私を置き去りにする。

「失礼でしたら、ごめんなさいね。……でも、殿下が仰っていた通り、確かに一度見れば忘れられない、印象に残る眼ですわ」

謝罪を口にしながらも、彼女の視線は吸い寄せられるように、私の顔に留まったまま離れない。
まるで、私が『私』ではなく、ただの『珍しいもの』になってしまったみたいだった。
そして、その言葉の中に『殿下』の名が混ざった瞬間、心の奥がまた別の形でざわついた。
暁臣様は——私のこの瞳を、どう話したのだろう。