【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

翌日。

午前中の柔らかな陽光が、昨日と同じ応接間に差し込む頃。
再びその部屋へと通された私の胸には、昨日とは質の違う、ざわざわとした落ち着かない風が吹き抜けていた。

藤波様の放つ、凛とした、けれど公平な厳しさとはまた別の——
もっと得体の知れない、肌を刺すような緊張感。
理由が分からないからこそ、余計に怖い。
身体のどこかが『逃げろ』と小さく警鐘を鳴らしているのに、私は逃げられない。

「お時間でございます」

控えていた女中さんの鈴を転がすような声に続いて、重厚な扉が音もなく開かれた。
室内に入ってきたのは、藤波様よりもまだ若く見える、たおやかな女性だった。

三十代半ばほどだろうか。
淡い若草色の訪問着をさらりと着こなし、その立ち居振る舞いには一切の無駄がない。
柔和な笑みを浮かべてはいるものの、その瞳の奥には、長年かけて磨き上げられた『社交の壁』のような隙のなさが潜んでいた。
笑っているのに、近づけない。
そんな違和感が、喉の奥に引っかかる。

「はじめまして」

その女性は、私の目の前で軽やかに膝を折り、流れるような所作で挨拶をされた。

「篠塚と申します。本日より、すみれ様の教養と嗜みの面を担当させていただきますね。どうぞよしなに」
「あ、あの……朝霞すみれです。よろしく、お願いいたします……っ」

彼女の声は穏やかで、春の小川のように耳に心地よい。
だからこそ——油断しそうになるのが怖い。

昨日教わったことを必死に思い出し、昨日よりはほんの少しだけ意識して背筋を伸ばした。
俯かない。視線を下げない。指先まで意識を張り巡らせる。
息を吸って、吐いて。笑顔……笑顔は、どう作ればいい?

……先生に言われた言葉を、お守りのように心の中で何度も何度も反芻する。
篠塚様は、私のそんな必死な姿を、どこか楽しげに、にこりと微笑んで見つめた。
見つめられている。
その事実だけで、胃のあたりがきゅっと縮む。

「まあ……。お噂通り、本当に、左右で眼の色が違っていらっしゃるのですね」