【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

ほんの数カ月前は、吹き付ける雪の中で凍え、誰にも見つけてもらえない暗い蔵の中で、薄汚れた布団に蹲っていたのに。
今ではこんなに陽の当たる場所で、何かに怯え、隠れるように息を潜める必要もない。

そして……何より。
今、こうして暁臣様の膝の上に抱えられているなんて……。

薄鼠色の絹の和服を纏った暁臣様の腕が、私の腰をしっかりと、けれど壊れ物を扱うような慎重さで引き寄せている。
指が帯の上で止まり、力を込め直す気配がする。
その体温が、背中から私の中に溶け出してくるようで、頭がどうにかなってしまいそうだった。

肩越しに届く呼吸は静かで、近い。
近いのに、触れられることを許す距離を、暁臣様はいつも丁寧に選んでくださる。
それが嬉しくて、同時に、私にはもったいなくて、胸がきゅっと縮む。

毎朝、目が覚めるたびに『やはりすべては幻だったのではないか』と怖くなる。
一度この優しさに触れることを知ってしまったら、もうあの暗闇には二度と戻れない。

「……でも、私なんかに、こんなに良くしていただくなんて」
「気にするな。すみれはもう、この家の客人ではないのだから。それと——」

暁臣様はそこで言葉を区切ると、私の頬を包み込むように手を添えた。
手袋越しではない、素手の温かさ。
指先が触れた場所から、痺れるように熱が広がって、瞬きの回数を忘れてしまう。

「だいぶ過ぎてしまったが、誕生日プレゼントだ」
「たんじょうび……?」

聞き慣れないその響きに、思わず瞬きを繰り返す。
誕生日と言うのは、誰かから何かを与えられる日だっただろうか……。