暁臣様に大きな手で導かれるまま、部屋へと向かう。
こんなに優しく、大切にされる日々が、本当に私の身に起きていることなのだろうか。
未だに、覚めることのない幸福な夢を見せられているような心地だった。
——もし夢なら、どうか覚めないで、と祈ってしまうくらい。
やがて、穏やかな空気の中で食事を摂りながら、暁臣様が今日のお妃教育について問いかけた。
「藤波はどうだった?厳しくなかっただろうか」
「あの……はい。とても、ためになることばかりで……。藤波様は、私のような者にも真摯に向き合ってくださいました」
「そうか。……だが、少し疲れが出ているようだな。食があまり進んでいないようだが」
生まれて初めて、『学び』と言うものに触れた一日。
疲れていないと言ったら、それは嘘になる。
全身に脱力感と、それ以上の緊張の残滓がこびりついていた。
箸を持つ指先が、ほんの少しだけ震える。
けれど、初日から弱音を吐いて根を上げるような真似をすれば、きっとこの場所に留まる資格を失ってしまう。
——そんな理屈のない恐怖が、体の奥に染みついている。
普通の家の子であれば、幼い頃に当たり前に身につけていたはずの作法や教養。
それを十八歳になるまで放棄させられていたことの報いが、今、一気に押し寄せているだけのことなのだ。
遅れているのは、私のせいではない。
そう分かっていても、『私が駄目だから』と責める癖だけは、どうしても消えない。
「……少しだけ、考え事をしてしまいました。お食事、とても美味しいです」
「そうか。無理をしているのではないならいい」
暁臣様の声は、穏やかなのに、背中を撫でられるように優しい。
それが逆に、涙の堤を緩めそうで、私は必死に飲み込む。
「何か思うことがあれば、どんな些細なことでも俺に言うように。いいな」
暁臣様の眼差しは、どこまでも過保護で、どこまでも深い。
その深さに、私は救われ、そして怯える。
深すぎるものは、いつか失うのが怖くなるから。
「元旦には、宮中での新年の祝賀会がある」
「祝賀……会、ですか」
「ああ。その時には、すみれには婚約者として、同席してもらうことになる」
こんなに優しく、大切にされる日々が、本当に私の身に起きていることなのだろうか。
未だに、覚めることのない幸福な夢を見せられているような心地だった。
——もし夢なら、どうか覚めないで、と祈ってしまうくらい。
やがて、穏やかな空気の中で食事を摂りながら、暁臣様が今日のお妃教育について問いかけた。
「藤波はどうだった?厳しくなかっただろうか」
「あの……はい。とても、ためになることばかりで……。藤波様は、私のような者にも真摯に向き合ってくださいました」
「そうか。……だが、少し疲れが出ているようだな。食があまり進んでいないようだが」
生まれて初めて、『学び』と言うものに触れた一日。
疲れていないと言ったら、それは嘘になる。
全身に脱力感と、それ以上の緊張の残滓がこびりついていた。
箸を持つ指先が、ほんの少しだけ震える。
けれど、初日から弱音を吐いて根を上げるような真似をすれば、きっとこの場所に留まる資格を失ってしまう。
——そんな理屈のない恐怖が、体の奥に染みついている。
普通の家の子であれば、幼い頃に当たり前に身につけていたはずの作法や教養。
それを十八歳になるまで放棄させられていたことの報いが、今、一気に押し寄せているだけのことなのだ。
遅れているのは、私のせいではない。
そう分かっていても、『私が駄目だから』と責める癖だけは、どうしても消えない。
「……少しだけ、考え事をしてしまいました。お食事、とても美味しいです」
「そうか。無理をしているのではないならいい」
暁臣様の声は、穏やかなのに、背中を撫でられるように優しい。
それが逆に、涙の堤を緩めそうで、私は必死に飲み込む。
「何か思うことがあれば、どんな些細なことでも俺に言うように。いいな」
暁臣様の眼差しは、どこまでも過保護で、どこまでも深い。
その深さに、私は救われ、そして怯える。
深すぎるものは、いつか失うのが怖くなるから。
「元旦には、宮中での新年の祝賀会がある」
「祝賀……会、ですか」
「ああ。その時には、すみれには婚約者として、同席してもらうことになる」



