婚約が正式に決まってからと言うもの、朝はお見送りをして、夜は玄関まで暁臣様をお迎えにあがるのが日課になっていた。
——その日課があるだけで、私は今日もここに居ていいのだと思える。
重厚な扉が開き、最初に目が合った瞬間。
私を見つけた暁臣様の表情が、ふわりと春の陽だまりのように柔らかくなる。
その瞬間を見るたびに——ああ、今日もここにいることが許されているのだと。
心の底から安堵し、胸の奥がじんわりとポカポカしてくる。
……それは、泣きたくなるほど。
「おかえりなさいませ。暁臣様」
「あぁ。ただいま、すみれ」
……?
いつもならそのまま二人でお部屋へ向かうはずなのに、なぜか暁臣様が立ち止まり、私をじっと見つめている。
彼が注いでくれる視線が、蔑みの対象だった『左右で色の違う瞳』に向けられたものではないと分かっていても、やはり真正面から見つめられると戸惑ってしまう。
どこを見ればいいのか分からず、視線が迷子になる。
「……その服、想像していた以上に似合っているな」
「はぇっ……!?」
いけない。不意打ちすぎるお褒めの言葉に、変な声が出てしまった。
熱い火を押し当てられたように、頬が一気に熱くなる。
藤波様に、どんな時も俯かないようにと教わったばかりなのに……。
こんな熱い眼差しで見つめられたら、顔を上げ続けるなんて、とてもじゃないけれどできそうにない。
逃げたいのに、逃げたら『俯く癖』に戻ってしまう。
立ち尽くしたまま、どうしようもなくなってしまう。
すると、ふわりと——手袋越しではない暁臣様の素手が、私の頭に添えられた。
撫でるでもなく、押さえるでもなく、ただ『そこに置かれる』だけの温度。
それだけで、胸の奥がとろけそうになる。
「……困ったな。もっと色々な服を買い与えたくなってしまう」
「っ、そんな……!今のままでも十分すぎるほどです……っ」
「ふ……少し困らせ過ぎたな」
低く笑う息が、耳元に落ちる。
甘い声のせいで、心臓の鼓動まで早鐘を打つ。
「さあ、部屋に戻って食事にしようか」
——その日課があるだけで、私は今日もここに居ていいのだと思える。
重厚な扉が開き、最初に目が合った瞬間。
私を見つけた暁臣様の表情が、ふわりと春の陽だまりのように柔らかくなる。
その瞬間を見るたびに——ああ、今日もここにいることが許されているのだと。
心の底から安堵し、胸の奥がじんわりとポカポカしてくる。
……それは、泣きたくなるほど。
「おかえりなさいませ。暁臣様」
「あぁ。ただいま、すみれ」
……?
いつもならそのまま二人でお部屋へ向かうはずなのに、なぜか暁臣様が立ち止まり、私をじっと見つめている。
彼が注いでくれる視線が、蔑みの対象だった『左右で色の違う瞳』に向けられたものではないと分かっていても、やはり真正面から見つめられると戸惑ってしまう。
どこを見ればいいのか分からず、視線が迷子になる。
「……その服、想像していた以上に似合っているな」
「はぇっ……!?」
いけない。不意打ちすぎるお褒めの言葉に、変な声が出てしまった。
熱い火を押し当てられたように、頬が一気に熱くなる。
藤波様に、どんな時も俯かないようにと教わったばかりなのに……。
こんな熱い眼差しで見つめられたら、顔を上げ続けるなんて、とてもじゃないけれどできそうにない。
逃げたいのに、逃げたら『俯く癖』に戻ってしまう。
立ち尽くしたまま、どうしようもなくなってしまう。
すると、ふわりと——手袋越しではない暁臣様の素手が、私の頭に添えられた。
撫でるでもなく、押さえるでもなく、ただ『そこに置かれる』だけの温度。
それだけで、胸の奥がとろけそうになる。
「……困ったな。もっと色々な服を買い与えたくなってしまう」
「っ、そんな……!今のままでも十分すぎるほどです……っ」
「ふ……少し困らせ過ぎたな」
低く笑う息が、耳元に落ちる。
甘い声のせいで、心臓の鼓動まで早鐘を打つ。
「さあ、部屋に戻って食事にしようか」



