【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

……同じことを、感じていた。
すみれは決して聡明さに欠けるわけではない。
一度教えたことは確実に覚え、対話の機微も驚くほど繊細に感じ取る。
それなのに、根底にある自信のなさが、彼女の輝きをすべて覆い隠してしまっている。
まるで、自ら光を消すことが生き残る術だとでも言うように。

「……具体的には、どういうことだ」
「失敗した際、一切の言い訳をなさいません。
それどころか、助けを求めることさえ、選択肢にないご様子。
ただひたすらに、嵐が過ぎ去るのを待つように耐えることを、無意識に選ばれておられます」

『無華』として生まれ、存在自体を否定され続けてきた十八年間。
その年月が、すみれの心にどれほど重い足枷を嵌めているのか。
想像するだけで、喉の奥が苦い。

書類をデスクに置く乾いた音が、静かな室内に重く響いた。
その音でようやく、自分が息を止めていたことに気づく。
だが、藤波は視線を逸らさない。——逃がさない。

「殿下。教育をこのまま続ければ、外見の形はすぐに整うでしょう。
ですが——その前に、心が削り取られてしまう。
ご本人にその自覚が全くないのが、最も危険な状態でございます」

深く、重い息を吐き出した。
すべてはすみれのため、彼女を外敵から守るための盾として教育を与えたつもりだった。
だが、それが彼女をさらに追い詰める刃になってしまっては、本末転倒だ。
彼女のあの、消え入りそうな笑顔を奪ってまで成すべきことなど、この世にあるだろうか。
守るはずのものを、俺の手で壊すなど——許せない。

「……初日から、厳しくしすぎたか」
「いいえ。本日の指導内容は、最低限の作法のみです。
それでこれほどまでに緊張し、心を摩耗されると言うことは……
あの方がそれまで置かれていた環境が、想像を絶するものであったと言う証左に他なりません」