【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

——待たれている。

待たれることなんて、今までほとんどなかった。
遅ければ殴られ、迷えば責められ、できなければ切り捨てられてきたのに。
だから余計に、怖いのに……少しだけ、救われる。

一呼吸置き、意を決して、ぎこちなく椅子に腰を下ろした。
座った瞬間、背中の汗が冷たくなる。

「……今は、それで結構です」
「……はい」

今は、それでいい。
それは、あくまで初日の今日だから許された座り方だ。
本当に求められている、お妃としての優雅な所作——
藤波様のような、指先まで神経の行き届いた動きなど、今の私にできる日が来るのだろうか。
あまりの道の遠さに、一瞬、眩暈がした。
遠すぎて、目を逸らしたくなる。けれど、逸らせばまた俯く癖に戻ってしまう。

「すみれ様。できないことは、恥ではありません。できないことを、できないままにしておくことが、問題なのです」

その言葉は、冷たい叱責でも、甘い慰めでもなかった。
ただ、真理を突いた事実。
だからこそ、胸に刺さった。
『できない』と笑われたことはあっても、『できないままにしておくな』と言われたのは初めてだったから。

「本日の拝見はここまで。次回も、少しずつ参りましょう。お疲れ様でございました」
「ありがとうございました……っ」

深々と頭を下げると、藤波様は再び一礼をして去っていった。
扉が閉まった後も、私はしばらくの間、椅子に座ったまま動くことができなかった。
足先がじんじんして、呼吸だけがやっと整っていく。

怖かった。けれど——。
……思っていたより、ずっと、親切だった気がする……。

怒鳴られもしなかった。
役立たずと見下されもしなかった。
一番恐れていた『お前のような無華に、教えることなど何もない』と言う拒絶の言葉も、なかった。
張り詰めていた胸の奥で、小さく、固い結び目がほどけていく。
これなら。もしかしたら。

——暁臣様が信じてくださるように、少しずつなら、進めるかもしれない。
その『少しずつ』を、私は今日、初めて自分の言葉として思えた。
そんな前向きな自分に、私自身が一番驚いていた。