毒婦の嫁入り~妹に騙された姉は、呪われた軍神の契約花嫁として求められる~

膳は毎日、部屋まで運ばれた。
温かな汁物に、炊き立ての白米、香の物、魚の焼き物。安土にいた頃よりも、よほど丁寧に作られた食事だった。
けれど、向かいに座る人はいない。
箸を取るたび、部屋に響くのは自分の衣擦れと、器が小さく鳴る音だけ。

「奥様、火鉢をもう一つお持ちいたしました」

ある朝、女中がそう言って、部屋の隅に新しい火鉢を置いた。
炭の赤い色が、障子越しの光にやわらかく滲む。近づくと、じんわりとした熱が足首の冷えをほどいていった。

「頼んでいないわ」
「旦那様からのご指示でございます。奥様は冷えやすいようだから、と」
「……そう」

胸が、きしりと小さく鳴った。

女中が下がったあと、私は火鉢に手をかざす。
指先に温もりが戻ってくる。
けれどその温もりを、素直に喜ぶことはできない。
妻としての体裁を求めないくせに、自分だけは気遣う素振りを見せることに、苛立ちすら覚える。

きっと、子を成すための身体を壊されては困るのだ。
私は妻ではない。契約相手だ。
期限までに子を宿すための女であり、粗末に扱い身体を壊そうものなら、役目を果たせなくなるから丁重に扱われているだけ。

そう思えば、胸の痛みをごまかせた。