毒婦の嫁入り~妹に騙された姉は、呪われた軍神の契約花嫁として求められる~

「お前が安土一の毒婦か」

三つ指をついて旦那様を迎える花嫁に向かって、顔を上げるよりも先に、名前も名乗る前から、降ってきた言葉。
幸せな結婚生活が送れるなどとは思っていなかったけれど。
この世でこんなにも惨めな嫁入りがあるのだろうか。まして、それが自分だなんて。

「先に言っておく。お前に妻としての体裁は求めない。俺に必要なのは妻ではない。子を成すための契約相手だ」

子を成すため。
それが理由だったのなら、顔合わせもせずに、予定を早めてたったひと月で祝言を上げることになったことも、花乃よりも「安土一の毒婦」と言われた私の方が好都合だったわけも理解できる。

「期限は一年。俺が二十五になるまでに、俺の子を宿せ」

三つ指をついたまま、ゆっくりと見上げる。
祝言の場では、横に座るだけで、顔をきちんと見ることはできなかった。

この人が私の旦那様になる一条家嫡男である(いつき)様。
軍神と聞いただけある、身長も高く、力強い眼差しには一切の迷いはない。
けれど想像していたよりも、ずっと端正な顔立ちをされている。

「懐妊が分かれば、契約は果たされたものとする。その後は離縁し、相応の金と屋敷を与える。安土家へ戻るなり、ひとりで暮らすなり、好きにしろ」

私を見下ろすその眼差しには、優しさなど欠片も感じられない。

「……一つだけ、お願いがございます」
「なんだ」
「契約が終わったあとも、安土家へは戻さないでください」