毒婦の嫁入り~妹に騙された姉は、呪われた軍神の契約花嫁として求められる~

その瞬間、私の腹に刻まれていた宿し紋が焼けるように熱くなった。

膝が崩れかける。
けれど旦那様が抱き留めてくれた。片腕で私を支え、もう片方の手で、私の腹に重ねた手を包み込む。

黒い紋が、私の肌の奥から浮かび上がるように脈打つ。

そして、ゆっくりと剥がれていった。
墨が水にほどけるように。蔦が根を失うように。
宿し紋の黒が、白打掛の上からでもわかるほど淡く光り、細い糸となって旦那様の胸へ戻っていく。

「旦那様、だめです……!」

全部、旦那様へ戻ってしまう。
そう思った時、旦那様は私の額にそっと額を寄せた。

「大丈夫だ。今度は、俺だけで終わらせる」

初めて聞くほど、やわらかな声だった。
戻った誓痕は、旦那様の胸で渦を巻いた。首筋へ這い上がっていた黒い筋が心臓の上へ引き戻され、そこに集まり、ぎりぎりと音を立てるように蠢く。

旦那様の身体が大きく震えた。
私はその胸に手を伸ばす。

「離しません」
「深幸」
「私は、旦那様の妻です」

胸が熱い。喉が震える。
けれど今、言わなければいけない。
指先の下で、誓痕が熱い。皮膚を灼き、肉を裂いているのではないかと思うほどの熱。
それでも手を離さなかった。

旦那様の目が、苦しみとは違うものでわずかに細められた。

その時、神前の鏡に、ぱきりと亀裂が入った。
続けて、旦那様の胸に集まった黒い誓痕が、ひび割れる。
黒い蔦の紋が、内側から白い光に裂かれていく。御前の間に満ちていた重苦しい空気が、風に払われるようにほどけた。

旦那様は大きく息を吐き、私を抱きしめたまま、その場に膝をついた。